凸凹の将来は明るい

 一昨日の夜、ちょいとしたお祝い会を駅前の居酒屋奥座敷で開いた。凸凹商事の書籍部で臨時社員をしていた若者が、凸凹商事の採用試験に通ったのである。

 ワシャが書籍部の新社屋を造る時に、業務の手伝いをしてもらったのは、もう2年以上前の話だ。その時期に臨時社員として働きながら、彼が凸凹商事の採用試験を受けていることを知った。気持のいい若者だったので、書籍部のメンバーで盛り上げたんだが、残念ながらその年は採用されなかった。その翌年も試験を受けたのだが、やはり落ちてしまった。連続で落ちるのは辛かろうと思い、ワシャはすでに退職をしていたのだが、書籍部の部下に頼んで、彼を「励ます会」をやったものである。

 今年、三度目の正直で試験を受け、今度は「桜が咲いた」ので、「では、お祝い会をやろう」ということになって、一昨日の宴とあいなった。

 ワシャが最年長だったので、「取りあえず挨拶をしてくれ」と言われた。だから、ネタをいくつか仕込むために、彼の直属の係長だった男にヒアリングして、受験の回数を再確認をしておく。そうしたらね、「実は試験を受けたのは4度でした」という衝撃の事実だった。4回の受験か・・・それは凄いな。3回も、不採用になって、それでもモチベーションを持ち続けられた若者は、もうそれだけで採用する価値があるわい。

 その4度目の話を交えながら挨拶をやった。いつもどおり、パネルや写真を駆使した受け狙いの挨拶は10分程だった。でも、参加者は大いに受けてくれて、主賓の若者も喜んでくれていたので、ホッとしたのだった。

 

 ワシャの後に、件の若者の挨拶だった。彼はのっけに「ひとつ訂正をさせてください」と言い「受験したのは5回で、4回落ちている」とのことで、参加者は「えー!」てなもんですわ。落された回数を、ワシャが2回だと思っていて、係長が承知していた3回よりもさらに多い4回落ちだったか。彼の近所に住んでいて、彼のことを幼い頃より付き合いのあった担当は「5回目の合格」だったことを知っていた。

 皆の興奮が収まった頃に彼は、また話を始めた。

「さすがに4回目は堪えました。もうダメだなと思いました。でも、そんな時に『励ます会』をやってもらって、ワルシャワさんには、『人間通』という本をいただいて、ボクは面接で落ちていたので『この本を読んで面接に臨めば大丈夫』と背中を押してもらいました。また、職場環境がとてもいいところで、メンバーもいい人ばかりだったので、こういった会社で働きたいなぁと思ったこともモチベーションにつながりました」

 いいことを言うじゃないか。凸凹商事は、全体としてはキミが言うほど大して職場環境に恵まれているほうではないし、いい人ばかりでもないと思う。が、そうか、そう思ってくれたか。参加者は、けっこう感動していたのう。ワシャの挨拶より素晴らしかったので、ワシャはちょいと悔しいでヤンス。

 こういった若者が次の世代を繋いでいってくれることが、頼もしいと感じたのだった。あの挨拶を聴いた現職の写真たちは、この若者のためならひと肌でもふた肌でも脱ごうという思いを持ってくれたことだろう。

 1回の受験で、トントンと合格して入ってくる若者も多いだろう。彼は、5回も受験して、4回をはねられて、でも腐らずその間2年を臨時社員として頑張って働いた。一緒に受験した人間は正規社員として活動を開始している。

「その2年をどういった気持ちで過ごしたのだろう」と老婆心ながら心配をしていたが、彼は「楽しかった」と言い、その間に社員それぞれと人間関係を構築していった。そこで作り上げた人的ネットワークは絶対に就職してから役に立つ!

 すでに課長、課長補佐、係長、担当とずらずら応援団が出きている。なんと社外役員まで「お祝い会」に駆けつけているんだから。そんな新入社員はいないって。

 社員たちが言った。

「入社式の終わった後、すぐに文書室に行って、どこにどの文書あるのかわかるよね。すぐに予算の執行も、別の課への連絡も全部できる新人なんていないよ」

「そう言えばここに並んだメンバーでほとんどの階が埋まるんじゃないの。とすると、本社ビルの上から下まで制覇していることになるよね。どのフロアでも困らない。知っている先輩に聞けばいいんだから」

「社外役員のフロアまで知り合いがいるじゃん。ワルシャワさんなら、キミが顔を出せば『よく来たよく来た』って歓迎してくれるよ」

 そ、そりゃまぁそうですよ。

 

 てなことで、5度目の大正直で合格した前途悠々の若者を肴にして、宴席はさらに盛り上がっていくのでした。めでたしめでたし。