志の輔

 志の輔がいい。もちろん大名人たちはいた。志ん生圓生、小さん、志ん朝、談志……でも、みんな彼岸寄席に行ってしまった。現役では志の輔が頂点だろうねぇ。
 かつて談志が真打昇進の問題で落語協会を飛び出して以降、最初の真打昇進者が志の輔であった。談志にしてみれば、落語協会の連中から「偉そうなことを言いやがったくせになんだあの真打は」とは絶対に言わせたくない。そのためにも実力、可能性をもった真打を出さなければならないという至上命題があった。
 兄弟子はいるけれど、それは落語協会で真打をとったメンバーである。上手い人はいるんですよ。でもね、次元が違うんだなこれが。
 立川流で初の真打になった志の輔は、太いだみ声さえ武器にして、名人に向かって歩み出している。て言うか、もう名人か。談春志らくもいいけれど、志の輔には風格が出てきた。「ガッテン!」なんて言っているタレントの志の輔と、高座に上がる志の輔とは全く別人である。少し前かがみで背を丸め、歩幅小さく、ひょこひょこと歩む。63歳にして大師匠の志ん生圓生に並んでいるかのようだ。
 人物の演じわけも見事ですな。高座という小さな舞台の上で、すうっと人物が立ち上がってくる。イメージではなく本当にそうやって登場してくるのだ。この演出は志の輔以外で見たことがない。
 先代の円楽は弟子を育てることに失敗した。しかし談志は大成功をした。その中でも志の輔を育てたという点で、師匠としてはガッテンだ……間違えた満点だった。

 おあとがよろしいようで。