中村屋

 昨日は忙しかった。早朝、三河の自宅を出て岐阜県大垣市へ。6月16日に吉事があり、その御祝いに行ってきたのだ。大垣の駅前の蕎麦屋飛騨牛蕎麦を食う。美濃の母親の実家やスキーの先生の家で味わった田舎汁に細い蕎麦が浸っている。その上に5Aランクの飛騨牛がふんだんに盛ってある。牛の脂が汁に溶けてあまい。美味〜い。
 午後は名古屋にもどった。仲間とともに平成中村座の夜の部に行く。まずは栄セントラルパークあたりでコーヒーを飲みながら、歌舞伎の予習。今回は歌舞伎が初めてという人が参加しているので、「千本桜」「白波五人男」などの簡単なあらすじと見どころを解説する。
 それから名古屋城二の丸の特設会場に移動する。午後3時30分より幕が開く。「まってました!」
 中村勘三郎丈が逝って5年。中村屋はどうなることかと本当に心配していた。まだ、勘九郎の芸も甘かったし、七之助にも歌舞伎俳優としての覚悟のようなものが見えていない時期だった。
 それでも家は続いていく。勘九郎はしっかりと勘三郎の味を継いでいる。大柄で真面目な勘九郎に父親のコミカルが動きができるのかと思ったが、ノープロブレム、会場からしっかり笑いを取っていた。
 七之助も三十半ばになって玉三郎のような大きな芸風が滲み出している。このまま精進を続けてぜひとの玉三郎を襲名してもらいたい。

 成駒屋だけど……。
 扇雀兄さんには、「千本桜」の「狐忠信」はえらかろう。年齢だってワシャとそれほど違わない。それがはしゃぐ狐、跳ねまわる狐、消えたり現われたりする狐を演じなければならないのだ。三代目猿之助は、強い意志と運動神経で見事にこなしたが、扇雀兄さんは下手に飛び込んで消えるところも、「せーの」と勢いをつけないと飛び込めなかった。舞台中央の反り返りも、猿之助玉三郎と比べると短かった。そんなことだから宙乗りもない。建物の強度的なものもあるのだろうが、猿之助海老蔵宙乗りに馴染んでしまった客にはやや物足りなかった。それでも兄さんの奮闘ぶりはあまねく伝わったと思う。扇雀丈、無理をしないでね。