名古屋平成中村座

 もう少し「名古屋平成中村座」にお付き合いくだされ。
 昼の部の演目が「壽曽我対面」(ことぶきそがのたいめん)、「封印切」(ふういんぎり)、「お祭り」。夜の部が「義経千本桜」、「弁天娘女男白波」(べんてんむすめめおのしらなみ)、「仇ゆめ」(あだゆめ)となっている。
 ワシャは「仇ゆめ」を観たことがなかったので、ちょっとした舞踊劇くらいに思っていた。確かに『歌舞伎事典』(平凡社)にも『歌舞伎ハンドブック』(三省堂)にも出てこない。
 まぁ小屋で買った筋書を見れば、1966年の初演の新作で、十七代勘三郎が主人公の狸を演じている。単なる舞踊劇ではなく、見所の多い詩情あふれる作品になっている。クライマックスでは外の景色を取り入れるという中村座お得意の舞台展開で、名古屋城の桜色に染まった夕景を見せた。これには会場からどよめきが起きた。石垣を染めているのは照明だろうが、そのむこうの空までは赤くしたのは先代のお茶目なサービスかもしれない。
 昼の部の「お祭り」でも舞台背後の壁が開いて、名古屋城を借景にする。雨の予想も出ていたので、ワシャ的には豪雨を見たかったが、霧雨がわずかに降っただけである。でもね、石垣、叢林、櫓などが一幅の墨絵のようで、これもまた味がありましたぞ。
 この舞踊劇の主人公の鳶頭を勘九郎がつとめる。相方の若い者が虎之介である。この二人の息が合わない。踊りながら勘九郎と虎之介が思わず苦笑している。最後には、勘九郎がポリポリと頭をかいてしまったくらいちぐはぐだった。が、それもライブの良さである。
 昼の部の演目が終わって、歌舞伎仲間の皆さんと小屋から外に出る。幕間に確認しておいた小屋裏の通用門のほうへ案内して、「さっき、ここから役者さんたちが何人も出てきたんですよ」と教えてあげた。仲間は頷いていたが、ちょうどその時、Tシャツ、ジーパン姿の白髪の小柄な男性が通用口から現われた。
 およよ!清元延寿太夫(きよもとえんじゅだゆう)ではあ〜りませんか!!
 ワシャはあわてて仲間に「延寿太夫でっせ!」と伝えるのだが、仲間の反応は薄い。えええ?七代目清元延寿太夫でっせ。勘三郎の従弟で、六代目の孫、江戸浄瑠璃の宗家ですぞ。周囲の反応がなかったので、声をかけるのを躊躇っていたら、延寿太夫はそのまま東門の方向に消えていった。
 でも延寿太夫を間近で見られてワシャ的にはよかったよかった。

 この方です。髪の毛は白くなっていますけど。
http://www.kiyomoto.org/airtist_page/p_t01.htm