夕べのNHKスペシャルが取り上げたのは日本最大の花街「祇園」だった。あるお茶屋の女将と娘にスポットを当てたお茶屋を嗣ぐことへの葛藤を描く。さすがにNHKだけあって創られ感満載のドキュメンタリーに仕上がりだった(笑)。
そんなディレクターの書いた物語などどうでもいい。ただ、夕闇にうかぶ祇園の風情、江戸情緒が漂い、街角をゆく舞妓の姿が可憐で絵になりますなぁ。そんな祇園の風景にどこか一カ所でもいいから「京都慕情」を流せばさらに京都への思慕の情がわいたのに……。
♪〜あの人の姿〜懐かしい〜黄昏の〜河原町〜〜遠い日は二度と帰らない〜夕闇の東山〜♪
Nスぺの中でお茶屋の座敷が映された。いかにも京都のお大尽然とした恰幅のいい老人が4人、芸者を侍らせて酒を酌んでいる。もちろん一見さんお断りであって、ワシャなど田舎者がおいそれと入れるところではない。三味線も入っていたので、1人20万円くらいはかかっているのだろう。それで頻繁に通わなければ客として扱ってもらえない。
どうしても京都で芸者遊びがしたくって旅行会社に頼みこんだら、祇園ではなく宮川町で一人8万円くらいでセットしてくれた。それでもしばし近藤勇や高杉晋作の気分に浸れた。
それにしても乱世はいい。多摩の百姓の倅が、山陰の藩の官吏が、風雲に乗じて京都に上って、祇園あたりを闊歩した。
「申し訳ありまへん。うちは一見さんはお断りなんどす」とか言われても、「新選組である」とか言って、ずけずけと登楼したものである。
この時ばかりは、京都の旦那衆も「さわらぬ神に祟りなしや」とばかりに祇園を遠巻きに見ていた。
三河のガキは「京都慕情」を聴き、『燃えよ剣』などの幕末ものを読むにつけ、祇園に憧れたなぁ。いつかは高杉のように千両箱を担いで暖簾をくぐりたかった。播州の小藩の家老のように、芸者を総揚げして鬼ごっこがしたいわいなぁ。
「由良様こちら手の鳴る方へ」
「とらまえて酒飲まそ酒飲まそ」
三河のオッサンは上洛が叶わなかった。だから地元で芸者を育成してお座敷遊びを普及させようと思って、毎日飲んでいるのだった。めでたしめでたし。