雪風

 週初めに読書会。会はもっぱら新聞社に勤めるメンバーの異動の話題で盛り上がった。それでもときおり思い出したように課題図書の話もしたんですよ。吉村昭戦艦武蔵』(新潮文庫)である。メンバーの皆さんは「読みづらかった」と言っていた。そうかなぁ、ワシャ的には吉村さんは大好物で『羆嵐』、『三陸海岸津波』、『関東大震災』などの記録文学はおもしろかったし、歴史小説の『破獄』、『桜田門外ノ変』、『黒船』も、その冷徹な筆致がよかった。
 でね、読書会の議論は、『戦艦武蔵』の内容よりも、たまたま参考になればということでホワイトボードに描いた「大日本帝国の勢力範囲の図」が中心に展開した。
 メンバーの一人は「これだけ広大な領土を有していると拡大に走ってしまう心情も理解できる」と言っていた。その人は比較的リベラルな考え方を持つ人だった。そういう人でもそう感じるということは興味深いことだと思った。
 北は、はるばるアリューシャン、南はソロモン・ニューギニア、馬蹄ひびかせ大陸ゆけば、満洲、上海、海南島。仏領インドシナこえて、マレー半島スマトラ島。日本はいくよどこまでも……。
 是非はともかくも、戦前の日本人のスケール感は、萎縮した今の日本人のそれとはずいぶん違っていただろう。
 話が逸れた。戦艦武蔵のことである。読書会でも話題になっていたが、なにしろ海軍の象徴的な戦艦ということで温存されていた武蔵は、太平洋をうろうろしただけで、ほぼ戦わずしてシブヤン海に沈んだ。あっけないと言えばこれほどあっけない最期を迎えた戦艦もない。
 かたや雪風という駆逐艦が存在した。武蔵と違って、太平洋での海戦という海戦で死闘を繰り広げた。
 雪風が陽炎型の駆逐艦として竣工したのは昭和15年1月である。その後、フィリピンのレガスピー急襲作戦で初陣をかざると、スラバヤ海戦、ミッドウェイ、ソロモン海戦ガダルカナルマリアナ海戦、武蔵の沈んだレイテ沖、そして大和が沈没した沖縄特攻作戦にも従軍している。おそらくこれだけの海戦を生き抜いた艦はいない。ほぼ無傷で終戦を迎えた。いや、無傷ではなかった。一発だけ宮津湾で空襲を受けた際に、右舷に被弾した。2000トンの小さな駆逐艦である。爆発すれば一艦の終りである。しかし、雪風は助かった。雪風に命中した爆弾が不発だったのだ。なんと運のいい艦であろうか。
 その雪風の乗組員の話がこれだ。
https://www.jiji.com/jc/v4?id=201904yamato0001
 ワシャは「大和ミュージアム」で購入した1冊の図録を見ている。表紙が不沈艦雪風である。その表紙の雪風を見ていただこうと探したけれど、いいのが見つからなかった。だから、こちらで雪風の勇姿を見てくだされ。
http://www.tamiya.com/japan/products/78020yukikaze/
 ううむ、雪風の幸運にあやかりたいものである。