或る中小企業の話

 中小企業とはいっても割に大きな会社で、専務は生え抜きの人物。その専務、総務畑を中心に出世してきた人で、社長の覚えもめでたい。その専務がこう言ったんだとさ。
「今の部長連中は自分たちでなにも判断をしない。すぐに私のところに判断を持ってくる。いいかげんにしてほしい」
 たまたまワシャはその会社を知っているのだが、部長たちのモノはけっして悪くない。どちらかと言えば、数年前までその業界ではけっこう頑張っていたほうだと思う。ところが新専務が就任してから、会社の雰囲気がガラリと変わった。その人の方針が「自分に相談のないことを動かすのは罷り成らぬ」というものだった。口癖は「聞いてないぞ」である。それでも1〜2年はなんとか動いていた。しかし徐々に幹部連中の動きは悪くなっていく。そんなのは当たり前で、自分で判断して「とにかくやってみよう」と積極的に動けば、専務の逆鱗に触れるのである。そしてさっきの口癖が飛び出す。
「聞いてないぞ。誰がそんなことを許可したんだ!」
 昨日、NHKの鶏の話をしたが、まさにあれなのである。権限を握るものがその力で抑えつけていけば、下の地位にある鶏は鳴かなくなる。組織を束ねる者がやってはならない筆頭がこれだろう。組織なんて鶏を鳴かせてナンボ。少なくとも直下の鶏くらいは委縮しないように、権限を握る者は常に気を配らねばならない。