国立劇場50周年

 国立劇場がオープン時から「歌舞伎公演の方針」を打ち立てて守ってきた。
①原典尊重
②通し上演
③復活上演
④わかりやすい演出
⑤適材適所の配役
⑥演出の統一
⑦創作の奨励
 この7つである。「原典尊重」とは、原典に当たりそれに則した台本を作って演じるということで、そのままなんですが、伝統の継承という観点から言えばもっとも重要である。だから第一に持ってきた。二番目の通し上演も古い歌舞伎ファンとしてはぜひお願いしたい。通しは商業歌舞伎ではなかなか実現できないですからね。先般も「錦秋名古屋顔見世」で「菅原伝授手習鑑」(すがわらでんじゅてならいかがみ)の内、「寺子屋」が上演された。「菅原伝授手習鑑」は全5段18場の長〜い演目である。その中の1場が「寺子屋」ですわ。「寺子屋」の前に16場の物語がある。それを観てこそのクライマックスだと思うのだが、現在は、「寺子屋」だけが上演されている。いわゆる「見取狂言」(みどりきょうげん)と言われるもので、「ローマの休日」で言うならば、「テヴェレ川のダンスパーティー」だけを切り取って上演しているようなものですな。だから「初見」の人ではほぼ解らない。見巧者(笑)の岩下尚史氏なら解るんでしょうけどね。
 その点、NHKのEテレ『にっぽんの芸能』に解説者として出てきた国立劇場顧問の織田紘二(おりたこうじ)氏は物腰もやわらかく(岩下氏も不必要にやわらかいけど)、話すことに品格があり(岩下氏もオネエ言葉で上品だけど)、ヘンに歌舞伎関係者に媚びる言動もなく、聴いていて歯切れがいい。こういう人が表に出て歌舞伎や古典芸能をPRしていくのがいいと思う。
 織田さんが披露してくれた話だけれど、国立劇場の開幕当初は、文楽公演に30人しか入っていなかったそうだ。もったいない話である。
 
 その『にっぽんの芸能』で、国立劇場の俳優養成について触れている。その時の講師が中村時蔵丈だった。若い養成所の卵たちに指導をする時蔵丈も貫禄がついてきたなぁ。「歌右衛門兄さんから教わったことを後進に伝えていく」という言葉には重みがあった。
 織田さんが番組の中でこんなことも言っていた。
歌右衛門たち国立劇場のスタートに立ち会った俳優は、九代目の団十郎たちから教えをうけている。その九代目世代は江戸期に生まれている。直にその薫陶をうけた役者たちが国立の舞台に立っている。まさに江戸歌舞伎の匂いが劇場じゅうに立ち込めていた」
 いいなぁ。ビデオ映像にも出ていたが、歌右衛門勘三郎仁左衛門松緑……団十郎玉三郎はまだ若手として出ている。いいなぁ(涎)、ぜひ観たかったなぁ。でも、当時10歳のクソガキで、草深い三河の田舎で蝉をとることに忙しかったので、その舞台には行けなかった。辛うじて最晩年の歌右衛門に1回だけ間に合ったが、その時にはまだ歌舞伎の本質を知らなかった(今でもそうだけど)。
一時期は国立劇場に足しげく通ったものである。まず値段が安かったし、席も空いていた。
 また行きたい。