上野広小路界隈

 黒田清輝はおもしろかった。午後3時前に入館して、見終わったら5時を回っていた。もちろん本館にも足を運んだ。でも1時間で見られるボリュームではない。せいぜい2部屋を駆け足で通り抜けるのがやっとこさだった。とはいえ、三十三間堂の千手観音様、東京へご出張なされていたんですね(感激)。名刀正宗、織部の茶碗、木造叡尊坐像など、名物はしっかりと押さえましたぞ。またゆっくりと来ることにしようっと。
 さて、東京国立博物館は午後6時に閉館した。だから正門前の上野公園広場に出店していた屋台も店じまいを始めている。頼めばそこでもビールくらいは飲ませてくれそうなのだが、そこはそれ、ワシャは鼻が利く。なんだか南のほうからワシャを呼んでいる。友だちを急かして、上野公園を抜け、閑散としたパンダ橋を東にわたり、広小路の交差点に出る。ううむ、匂うぞ匂うぞ。およよ、交差点ごしの御徒町中央通りがなんだか誘っているような……。交差点の人をかき分けかき分け、通りに一歩踏み込むと、祭の凄い賑わいそのもの、田舎者のワシャには強烈な空間だった。
 そこで店を見つけた。「小料理 志んせい」である。奥の小さなテーブルに案内される。障子のむこうから上野の喧騒がダイレクトに伝わってくる。席に着き、「メニューは?」と聞くと、女将が黒板を示した。この店にはべとついたメニューなんか置いてなかった。ざっと眺めると、酒飲みの好きそうな品が並んでいる。「クジラ刺し、しおから、ハタ刺し……」と適当に注文する。
「うちはおでんが美味しいよ」と女将。
「じゃあおでん」
「クジラは尾の身もあるよ」
「尾の身!」
 当たりだった。クジラ刺しは愛知県の居酒屋でもちょくちょくお目にかかる。しかし尾の身は小さな居酒屋でなかなか出会えない一品だった。それにイナゴもあったんですよ。これも速攻で注文した。
 でね、人のざわめきを聞きながら熱燗をやっていると、耳に「わっしょいわっしょい……」なんていう掛け声が伝わってくる。最初は小さかったんだけれど、だんだんと大きくなってきた。
「なに?」
 と、暖簾のところに立っている女将の方を見る。「こっちへおいでよ」と手招きをするではあ〜りませんか。急いで入り口に行きましたぞ。
 そうするとちょうど下谷神社の「千貫神輿(せんがんみこし)」が御徒町中央通りに差し掛かったところだった。その日は下谷神社の大祭
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201605/CK2016050702000156.html
 御祭神は日本武尊ヤマトタケルノミコト)だから、今日は東京国立近代美術館安田靫彦の「日本武尊」、トーハク平成館で青木繁の「日本武尊」にお会いしている。これで三度目、ご縁があったのだなぁ。その御神輿を間近にみられてラッキーラッキー。武運長久間違いなし!
 あ〜楽しかった。