兵庫県香美町の大乗寺
http://museum.daijyoji.or.jp/
に、「郭子儀図襖(かくしぎずふすま)」がある。
昨日と重なるが、もう一度、上のURLをクリックしていただき「デジタルミュージアム」にはいってください。「客殿めぐり―大乗寺の各部屋を歩く―」をクリックすると、間取り図が出てくるので、その左にある「客殿検索」をクリック。間取り図に「芭蕉の間」というものがある。そこを観ていただきたい。
東面に白い長衣姿の老人が立っているのがご覧いただけると思う。それが郭子儀である。郭子儀、唐代陝西省(せんせいしょう)華州の人。楊貴妃を寵愛した玄宗から四代の皇帝に仕えた武人である。支那の歴史上の英雄の中でもとくに敬愛されており、後世、画題にも珍重されている。だから応挙も描いているわけだけれど、強く、優しく、敵からさえも尊敬された好人物であった。
この襖絵のことである。ワシャは今、『日本美術全集』(小学館)の14巻を開いているのだが、見開き50cmに座敷の2面の襖が写っている。東面の郭子儀と、南面の芭蕉で遊ぶ子供たちの絵である。もちろん襖ばかりでなく、部屋全体を撮影しているので、手前の畳がフレームの中に入りこむ。
ここで、応挙は空間プロデューサーとしての力をいかんなく発揮している。東面の郭子儀は南面の子供たちを優しい面差しで眺めているのだ。つまり、郭子儀の視線は東面の襖から飛び出して、畳の上を通過して南面の襖の子供たちに注がれている。もし、見学者が芭蕉の間で、郭子儀と南面の子供との間に立つと、郭子儀が子供たちに送る暖かい視線を妨げてしまう。つい、郭子儀に対して「失礼」とわびたくなる、そんな奇妙で不思議な空間がそこにある。
同じく大乗寺の孔雀の間である。適宜、大乗寺の「デジタルミュージアム」をご覧ください。東面と北面が直角に交わる隅に二本松が立ち上がっているのがご覧いただけると思う。東面の平面には、二本松から南に向かって長い枝が張り出して、豪壮な構図を見せている。
もう一方、北にも枝が張り出しており、座敷の中央から東面、北面を眺めると、松は二次元から解き放たれて三次元の世界を醸し出す。これが応挙の真の力量と言っていい。
鬼才蕭白は「画を求めるならオレに、絵図を求めるなら応挙に」と揶揄した。
参州田原藩の家老であり著名な画家でもあった渡辺崋山も、応挙門下の二哲と言われた松村呉春の絵を「媚びの技術がめだって吐き気をもよおす」とこき下ろしている。どうも芸術家からは円山派は人気がなかったようだ。
ワシャはもちろん素人のトウシロウなので、応挙の大迫力3D画面には感動してしまうのであった。めでたしめでたし。