彼岸時化(ひがんじけ)

 今、東海地方の天候は荒れ模様で、少し強い雨が降っている。まさに「彼岸時化」であろう。週初めにしとしとと降り続いた雨は「催花雨(さいかう)」だった。花が咲くのを催促するようにやさしく降る春の雨である。
「膏雨(こうう)」「膏霂(こうもく)「甘雨(かんう)」「木の芽雨(このめあめ)」「甘霖(かんりん)」この時期だけでも、雨の名前はたくさんある。奈良県南大和郡には「高野のお糞流し」という雨もあるらしい。時、場所、状況を変えて、たくさんの雨の呼び名のある国がワシャは好きだ。

 昨日は夕方まで雨は降らなかった。昼食後、ちょいと用足しに自転車道流星号で軽快に走っていた。もちろんこの季節である。ワシャは花粉症なので、マスクをしっかりとつけてまっせ。それもいい加減な装着の仕方ではない。きちんと鼻の形状にあわせてワイヤーを曲げ、顔にフィットするようにしている。
 まもなく職場というところで、首筋に何かが当たった。虫でも当たったか。そんなのは気にしないで走り続ける。しばらくして、異臭が漂ってくる。何日も風呂に入っていない浮浪者の臭いとでも言えばいいのだろうか。ツーンと鼻を突く臭いだった。自転車道を走っていれば、時折、そんな臭いもするわさ。周囲を眺めてもそんな状況はない。え、銀杏が実を落としている?そんな季節でもないしなぁ。そう思って、ペダルをこいでいると臭いは増々強くなって、息苦しくなってくる。
「ゲゲゲッなんじゃこれはー!」
 咄嗟に、これはマスクの中になにか原因があると思って、花粉は濛々と飛散しているが、そんなことに構ってしられない。マスクを勢いよく外すと、黒い虫が内側のひだの間からブ〜ンと飛んでいった。なんだろう。カメムシだったのかなぁ。よくわからないけれど、もう少しで窒息するところだった。虫はどこかへいってしまったが、マスクに残った強烈な臭いは消えない。花粉はこれでもかというほど飛んでいる。マスクは使えない。
 こんなこともあろうかと、ワシャはマスクのスペアを持っているのだった。しかし、再度、カメムシ攻撃を受けたらマスクの替えはないので大急ぎで家に戻ったのだった。えらい被害事件だった。