大高源吾

 顔見世で「松浦の太鼓」を観て、まだその余韻が消えない。大高源五である。「忠臣蔵」の四十七士の中では上位に位置するスターと言っていい。主役はもちろん大石内蔵助であるが、剣客でもあり文人でもあった大高源五も準主役級であろう、と思い、「仮名手本忠臣蔵」に登場する赤穂浪士をざっと拾い出した。
二段目、大石主税
四段目、大石内蔵助原惣右衛門
五段目、神崎与五郎
七段目、神崎与五郎、間重次郎、武林唯八。
十段目、杉野十兵次、前原伊助不破数右衛門勝田新左衛門、間重次郎。
十一段目、原惣右衛門、間重次郎、神崎与五郎、武林唯八、片岡源五右衛門
 およよ、11人しか出てこない。「仮名手本忠臣蔵」は大石内蔵助が大星由良之助だったり、片岡源五右衛門が片山源太であったり、公儀への遠慮で当時は名前を変えて役名にしている。このために台本を読んでも、実際の赤穂事件に連なった浪士と、フィクションの登場人物とがうまくリンクしない。それでも早朝、四苦八苦して洗い出した。「朝からなにやってんねん」という話ですな(笑)。
 まいいや。それで、改めて判ったのが、「仮名手本忠臣蔵」本編には、現在で言うところのスターが登場していないということだった。堀部安兵衛とか大高源五などは、当然のごとく最前列で登場しているのかと思いきや、「義士討入りの場」に名前を連ねるくらいのチョイ役だった。
 ううむ、剣豪小説ではないので、大石内蔵助という人間のドラマだから、別の意味で視線を集めてしまう堀部安兵衛大高源五などにはスポットを当てないということなのだろう。
 明治後期から大正にかけてのジャーナリスト・政治家だった福本日南の『元禄快挙録』に大高源五の記載が8章にわたってある。これは堀部弥兵衛、安兵衛が9章を使っているのに次いで多い。大高源五文人であったから、いろいろな資料が残っているということだろう。
 その中にこんな句が記されている。
「だまされて鹿の鳴く音ぞ哀れなる」
 これは、源五が浅野内匠頭の供をして赤穂に下向するときに三河から名古屋城下に抜けるあたりの山間で詠んだものである。文月十六日というから、今なら9月の上旬か。当時は寒冷期にあったから、気候的には今くらいなのかもしれない。

 あ!もしかしたら、名古屋の東部丘陵の大高あたりで詠んだかも。