文楽

 このところいい天候が続いている。昨日の空も天が郄く、風がやさしく、木陰で軽食をとるには最適な日だった。ただし、藪蚊が多いのには困る。いつも「虫よけスプレー」を持っているわけではないのでね。
 岡崎に、セキレイホールという中くらいのホールがある。そこで「文楽」があった。出し物は「心中天網島」で、やっぱりここでも女郎屋遊びにうつつをぬかす不甲斐ない旦那が主人公だ。どうもうじうじしたボンボンに感情移入ができない。だから歌舞伎でも近松心中ものは触手が伸びないんですね。だって、色男が寸詰まりの当代鴈次郎、女郎がでっぷりと肥えた藤十郎ではねぇ。仁左衛門玉三郎というなら話は別だが、なかなかそんな心中ものは掛からない。
 そこへいくってぇと、文楽はいいですよ。そもそも人形が演じるのだから、どの色男も色男なんだから(笑)。傾城だって女将だって、いい女はいい女だ。その点に疑問は感じない。また、人形なのだけれど、これが名人の手にかかると、とても素晴らしい表情を出してくるから不思議だ。昨日の道行の小春もけなげで可愛らしい。「心中の場」でも人形だからリアルにできるというところもあって、けっこうラストは凄絶だった。
 文楽は人形劇である。だから誇張もあったりして楽しい。しかし、浄瑠璃が理解できないから観られないという話がある。でもね、最近は字幕が下手について、これがあることで太夫が何を言っているのかが見えるようになってきた。これは文楽の振興一助になるのではないか。昔は、知った顔などにめったに会えるものではなかったが、昨日も何人かの知り合いを見つけた。まだ文楽を見ていないあなた、食わず嫌いをせずに一度鑑賞してご覧なさい。おそらく最初は寝てしまうでしょう(笑)。でも、そこからがいいんだ。