清貧

 作家の東良美季さんの生き方が格好いい。
 東良さんには一度丹波篠山でお会いしたことがあって、その時に著書である『猫の神様』(新潮社)にサインをしてもらった。東良さんは、現在、都内の39,000円のアパートに住んでいるのだが、その生活が清貧というか、お金をかけてはいないのだけれど、豊かな生活をしている、ような気がする(笑)。
 例えば近所のスーパーで安く買った練り物を使って、手づくりの「オデン」をつくる。それをその夜に食べるのかと思いきや、一日ねかしてから食すのが美味しいという。
http://jogjob.exblog.jp/23103858/
 あるいは「梅雨寒うどん」
http://jogjob.exblog.jp/22210918
をつくる工程が日誌に書いてある。「これは現在、我が家で考えうる、最も安価な食事であります」と言っておられる。内容は「鶏のムネ肉1キロのパック370円」を100gと「みなさまのお墨付き 熟成うどん」5束189円を1束つかってつくるのだそうな。《作り方はいたって簡単。薄めの鰹だしでムネ肉を茹で、いったん取り出して冷ましてから手でほぐす。鶏の旨味の出たおだしに、醤油と塩、味醂、お酒で味付けしてつゆを作る。この際、生姜を少量摺り下ろすと味が引き締まる。そこにほぐしたムネ肉を入れ、水溶き片栗粉で軽くとろみを付け、茹でたうどんにかければ出来上がり。》
 長ネギは高いので、カイワレ大根で彩りをつける。正味100円弱の昼食である。
「あまりに貧しい食事ではありますが、梅雨寒の午後、とろみの付いた温かいうどんをすするのも、これまた人生の小さな幸せではありますまいか?」
 と、東良さんは言われるが、日誌を読んでいると、美味しそうで、楽しそうで、羨ましくなる。人生の達人、そんな気がする。

 十数年前のメモ書きに「貧乏は、自然の目的によって計れば、大きな富である。これに対して限度のない富は、大きな貧乏であるby良寛」と書いてあった。あの良寛様の言葉をどこかから拾ってきたのだが、出典が記されていない。だめじゃん(笑)。
 おっと、こっちは出どころが顕かだ。中野孝次『風の良寛』(集英社)である。
「貧乏でなければ道(どう)を悟れない、(中略)もしほんとうにそうならば、物を多く所有し、ゆたかさを謳歌する現代人は、ついに悟道と無縁なわけである。真の幸福は悟道と結びついているのなら、貧乏にならぬ現代人はついに真の幸福とは無縁であるのか。」
 東良さんの日誌を拝見していて、そんな言葉を思い出した。