対比

 高倉健さんと福本清三さんである。ご両所は俳優。高倉さんは大スターであり、福本さんは大部屋の斬られ役だった。役者としては天と地のような差なのだろう。けれど、高倉さんと福本さんってどこか似ていると思った。
 205作目の「あなたへ」の健さんは、相変わらず健さんで、「幸せの黄色いハンカチ」の健さんも「遥かなる山の呼び声」の健さんも、みんな同じ健さんだ。でも、それぞれの役で、健さん健さんなりに役作りに研鑽(笑)していた。「あなたへ」の中にある大滝秀治さんとの共演のシーンで、健さんは演技後、状況に感動し涙を流している。それだけ役に入り込んでいるわけだ。
 ワシャは高倉健という俳優が大好きだし、健さんの書いた何冊かの本を読んで、人間として尊敬もしている。でも、大根ですよね。どの役でも、自分のことは「自分」って言っているし、根底に筑豊の男があるというところも同じだった。そこがいいのだけれど……。
 かたや福本さんである。福本さんもどの作品を観ても、同じ人だった。5万回の斬られ役、5万回の悪役、当然のことながら敵役として同じであることを求められる。それを福本さんは地でいけた。だから彼は演技をしなかった。
 演技をした健さんと、演技をしなかった福本さん、まったくタイプの違う俳優なのだが、なぜか同じ匂いを感じてしまう。それはおそらくお二人とも一つの道に精進してこられたからなのだと思う。

 大相撲の九州場所が終わった。結果は横綱白鵬の優勝ということで大して盛り上がることもなく千秋楽を迎えた。いったいいつになったら日本人力士の優勝を見られるのだろう。当分の間、白鵬の天下は続くだろうし、その後には怪物の逸ノ城が控えている。下手をすると10年くらいは日本人の優勝はないかもしれない。
 その一強の白鵬が32度目の優勝を果たした。ワシャ的には優勝はしてほしくなかった。鶴竜に頑張ってもらって、なんとか白鵬の優勝を食い止めてもらいたかったなぁ(泣)。昭和の名横綱大鵬白鵬の名前が並ぶことに嫌悪感を持っている。なぜか。強いということに関していえば、白鵬はいい力士だと思う。あるいは大鵬に匹敵するくらいの実力を持っているのかもしれない。ただ「技」、「体」は満たしていても、「心」が横綱になっていないのだ。下位の力士に対して、勝負がついているのにも関わらず「駄目押し」をする。懸賞金を引っつかんでガッツポーズをする。大鵬はそんなことは一切しなかった。いつも明鏡止水の心境で土俵に臨んだ。
 力士の出身国などにこだわるものではない。日本人の優勝を見たいとは思っているが、実力の世界である。最強の男がモンゴル人だってかまわない。大鵬だって半分はロシア人だった。ただね、大相撲はスポーツではないのだ。神事であり、伝統であり、武徳である。最高位の横綱は神でもあるのだから、けっして表に色を出してはいけない。
「心」で大鵬の域に達するには、まだまだ遠い道のりだろう。できればそのことに白鵬は自覚的であって欲しい。