日記がおもしろい

 昭和39年9月21日の『佐藤栄作日記』である。
《彼岸の入り。独りでゴルフに行く。》
 またゴルフでっせ。
《一ラウンドした処で降雨。丁度いゝ処でやめた。》
 元気な佐藤は軽井沢の別荘にいる。この日にこんなことも書いてある。
《池田首相の容態は予想通り悪い方向へ向かったとラヂオ報道。段々うるさくなる事》
 池田隼人は7月10日の自民党臨時大会で佐藤栄作と戦い、辛勝ではあるが総裁選3選をはたしたばかりだった。すでにその頃から体調悪化の兆候はあったのだろう。無理に無理を重ねた結果、かなり進行した喉頭ガンで東大病院に入院を余儀なくされた。総裁選から2カ月も経たない9月7日のことである。
 佐藤日記では、9月7日に佐藤は池田首相と宮中レセプションで顔を合わせていることが書かれている。《池田総理に公選の後初対面。ノドの具合が悪いと訴えて居たので、煙草をやめる様にすすめゝる。》
 9月8日《首相の病気俄然入院を発表したので問題化す。しかも癌センターと云ふので重大化するのは当然。》と連日の記載がある。この後も9日、11日、13日、15日、16日と池田首相のことを書いている。ライバルではあるが盟友でもある。佐藤にしても気になってしようがないのだろう。それでも13日、14日、15日と連続でゴルフには行っている。相変わらず元気だ。
 10月25日池田首相が退陣表明。11月9日自民党両院議員総会で総裁を佐藤栄作に決定する。
 この間の2カ月は佐藤にとって、まさに位人臣を極めるかどうかの瀬戸際の時間であったに違いないのだが、『佐藤栄作日記』は池田の病状の話、ゴルフに行った行かないの話、日常のコモゴモなどが書かれていて、佐藤の意中については一切触れていない。己の実力を信じ切った余裕なのか、あるいは本当に無頓着なのか。日記の先を読むのが楽しみになってきた。