ABKAI

 24日、25日と市川海老蔵の自主公演「ABKAI」が愛知県刈谷市のJR駅前で開催された。1500席の大ホールは満員御礼である。海老蔵の集客力はすごい。
座頭は海老蔵で、名題市川市蔵だけ。歌舞伎役者は9人だけのこじんまりした一座である。
 まずは新作舞踊の『碇知盛』がかかる。『義経千本桜』の二段目の『渡海屋』『大物浦』の焼き直し簡易版と言っていい。知盛(海老蔵)が断崖で碇を持ち上げるが、それを海に投げ入れず幕となる。今一つ消化不良の演出だった。でもね、安徳帝を演じた市川福太郎(13)がかわいい。海老蔵の部屋子なのだが、これはおもしろい役者をめっけた。
 後半は、新作舞踊劇『SOU〜創〜』である。物語は古事記から採っている。須佐之男命(海老蔵)が、紆余曲折を経てヤマタノオロチを退治する……というもの。これがなかなかダイナミックで、出演者の数の割には迫力があった。間違いなく海老蔵は、先代の猿之助の強い影響を受けている。そしてカーテンコールの際の海老蔵のしぐさや、客席に何度か降りていくシーンがあったが、その時のアドリブなどを見ていると十八代目の勘三郎をほうふつとさせるのだった。猿之助勘三郎の合体、これは楽しみが増えたわい。
 それから『碇知盛』で安徳帝を演じた福太郎である。子役だと思っていたら、伊邪那美や山城の女官をやっているではないか。伊邪那美は動きやセリフはなかったが、女官は重要な役回りで、こちらを見る限り上背が少し足りないけれど、立派な女形だった。舞も堂に入ったもので、とても13歳の中学生の技芸ではない。福太郎、うまく育てばいい歌舞伎役者になる。ううむ、これでまた歌舞伎がおもしろくなりそうだ。