松山はええところぞな、もし

 日露戦争開戦記念日から、秋山好古、真之兄弟つながりで松山にこだわっている。司馬遼太郎の『坂の上の雲』では、松山で生きる兄弟の幼少期が活写された。奇しくも今日はその司馬遼太郎の菜の花忌である。日本人とはなにかということを探求しつづけた作家が旅立って、もう18年も経つのか。その間に、日本も日本人もずいぶん変化した。今の状況を司馬さんがご覧になったらなんと言われるのだろう。
「今の人たちはシビライズドされていませんな」
 とか苦言を呈されるのかなぁ。この発言は司馬さんの『歴史を考える』の中にある。シビライズドとは、教化されるとか礼儀正しいというようなニュアンスであろう。『竜馬がゆく』にこんな文章がある。
《武士の道徳は、煮詰めてしまえば、たった一つの徳目に落ちつくであろう。潔さ、ということだ。盗賊を働いてもいい。殺人を犯してもいい。それらの罪は世の法によって検断されるが、たとえ検断されても武士の武士たる所以のものはほろびない。それがほろび去るのは、その法を犯した者が、潔くなくなる瞬間からであった。》
 この「潔さ」をどう教化していくのかが難しい。河内守(かわちのかみ)さんでしたっけ。この期におよんで何をじたばたしているのか。もう将棋なら詰んでいる。世間的にはもう葬られたのも同然だ。あとはどう潔く退場するかなのだが、そのあたりにまだ未練が残っているようで、恥をまき散らしている。
おっとっと、松山の話だった。司馬さんの松山もいいが、やはり夏目漱石の『坊ちゃん』は欠かせない。おそらく普通に読書をしている方なら、必ず読んだことのある小説だろう。松山へ行くならば、やはりこの名作はおさえておいたほうがいい。
『坊ちゃん』をとおして松山を眺めるとなると「道後温泉」ははずせないぞな、もし。団子を食って騒がれ、湯壺で泳いで「湯の中で泳ぐべからず」と貼り紙をされた名湯である。少し建物はきれいになっているが漱石が通った当時の面影は残っている。
 それから「松山城」も登ってみたい。江戸時代以前に建てられた数少ない重要文化財天守が残っている。この天守閣からの眺めもいい。天気がよければ、城内を散策するのもまた一興だ。健在であるなら、「坊ちゃん」が下宿した「いか銀」という骨董屋のモデルとなった「愚陀仏庵」(ぐだぶつあん)が見られるのだが、平成22年の土砂くずれで倒壊し、再建の目途がたっていないという。ちなみに愚陀仏というのは漱石の俳号である。
 ワシャなら間違いなく「坂の上の雲ミュージアム」なのだが、司馬ファンではない若い人たちには、おもしろくないかもしれない。「子規記念博物館」も俳句好きにはたまらないが、一般受けするとは思えぬ。
 でもね、松山市内を走る「坊ちゃん列車」にはぜひ乗りたい。平日で5便、休日で10便程度なので、時刻表を確認してうまくスケジュールを組んだほうがいいだろう。また、城の南に「大街道」(おおかいどう)という商店街がある。往時から松山第一番の繁華街であり、真之たちも闊歩していたところである。
 日本の都市に共通して言えることなのだが、明治は急速に消えつつある。それは松山でも同様なのだが、それでも市内のあちこちには明治の残滓が密やかにではあるが残っている。そのあたりを発見するのも旅の楽しみですね。

松山市観光】
http://www.city.matsuyama.ehime.jp/kanko/kankoguide/
坂の上の雲
http://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/machizukuri/sakanoue/field_museum_map.html
【坊ちゃん】
http://www.city.matsuyama.ehime.jp/kanko/kankoguide/kankomeguri/bocchancourse.html
【坊ちゃん電車時刻表】
http://www.iyotetsu.co.jp/botchan/timetable/weekday.html
【大街道】
http://www.okaido.jp/