5社協議

 昨日の午前中、大きな会議を一つ終えることができた。我社のアクションプランについて了承を得るという会議で、そのプランの作成に4カ月半を費やし、ようやく会議にこぎつけたものだ。まさにこの会議の成否が、4カ月半にわたる部下たちの努力の内容を問われるもので、そういった意味からもワシャにとって重要な関門だった。
 実は、この会議、4年前に大紛糾をしたことがある。会議は20人ほどのメンバーで構成されているのだが、その中の2人の委員が、突如、プラン内容に、執拗な異議を言い始めた。要するに上の人間の調整不足なのだが、とにかく社長以下執行部が居並ぶ中での混乱だったので、関係者のストレスは大変なものだったと思う(思うっていうのは、その時、ワシャは異動する前なのでその会議に関与していない)。その時の担当は、未だに「うんざりだった」と回顧している。結果、プランは了承されず、担当者たちは、再調整に奔走しなければならなかった。
 そのトラウマが残っていたので、その後の事前調整は木目の細かい対応をした。そのおかげかどうかは判らないけれど、とにかく過去3回は、多少の異論は出るものの、なんとか事なきを得て過ぎてきた。
 そして4回目が昨日だった。会議は次第に則って粛々と進む。議長からプランの説明を求められる。ここがワシャの出番なのである。ここで30〜40分くらいかなぁ、200を超える事業計画の中からいくつかをピックアップしてパワーポイントで説明をする。これがなかなか大変で、終了後は汗びっしょりになってしまう。言い間違いも3か所くらいあったらしいが、すんなりと過ぎてしまった(ホッ)。
 その後、かなり濃厚な質疑応答があったが、事業を後押ししてくれる好意的な発言が多かったのがありがたい。
 ひとしきりの質疑が終り、午前10時に始まった会議は正午になろうとしていた。その状況を見て取った議長が確認をとる。
「議論も尽きたようですので、この案で了承することにご異議ございませんか」
 会場が水を打ったように鎮まる。
「異議なし」
 どこからか小さく声が掛かる。それに誘われるように「異議なし」「異議なし」の声が続く。この瞬間がたまらない。鳥肌が立つ。
 議長の終了の宣言を合図に、執行部側は席を立って委員に深々と礼をする。これで会議は終了。長かった……しかしあっという間の2時間だった。
 会議終了後、委員の一人から、世辞も入っているだろうが「近年にないまとまりのいい会議だった」と言われた時には、ホント、肩の荷が下りましたぞ。会議終了後、一所懸命にワシャを支えてくれた部下たちと会議の成功を喜んだことは言うまでもない。

 その午後にも位置づけからすると大きな会議が隣町であった。仮にそれを「5社協議」と呼びたい。あの「6者協議」というのがあるでしょ。最近は開かれないけれど、北朝鮮核兵器問題を解決するために、日、米、韓、中、露、それに北朝鮮を加えた6か国によって行われていた協議が「6者協議」だ。あの結論がでない協議によく似ているので「5社協議」(笑)。
 担当者協議、事務次官協議、副大臣協議、大臣協議、首脳会談と「6者協議」に関わらず、国際会議や組織のトップが集う会談は順をおって調整をしていく。首脳会談までいけば突拍子もない発言や、どんでん返しなどというものはありえないことは周知のとおりである。
「6者協議」もなかなか首脳会談まで進みませんな。それは北朝鮮が協調しないこと、支那中国が積極的に主導しないことなど、いろいろな障害が重なって、下の方の協議レベル(それすらもないかも)で動かなくなってしまった。
 事前調整が必要なことは、小さな会社が集ってする協議だって同じである。担当者協議、部課長協議、トップ会議と順を追って進めていかなければならない。トップが揃う最終の会議では、すべての事項は調整済みで、トップが一堂に会してそれを確認し合うというセレモニーになる。だから、その前段の調整協議が重要で、ここで侃侃諤々の話し合いがもたれる。
 事前の部課長協議で了承された事項は、それぞれの組織のトップに伝えられ、その了解の基に最終会議に臨む。昨日もそうだった。
 しかし、某社のトップがちゃぶ台をひっくり返してしまった。
 その方を仮にX社社長のX氏とでもしておこうか。X氏、5社協議で言いたいことがあった。しかし、それは自社の都合だけを考えた話なので、もう少し下のレベルでの検討が必要な事項だった。話が出ても、他の社長を不愉快にするだけのことなので、X氏からの発言ということではなく、事務局からやんわり話題として代弁することで、X氏、X社のメンツも立てようということで、丸く収めようということになっていた。
 ところが、X氏は発言をしてしまった。当然、各トップはX氏の発言を想定していない。会議は、紛糾とまではいかなかったが、最後のところであたふたした観があった。ワシャとしては、下部協議でがんばって調整をしてきたつもりなので、X社の担当に裏切られたようなものである。
 午前中の会議が実りある有意義なものだっただけに、午後の会議の、調整のあまさ、このため一部の社の独善的な姿勢が露呈したことが残念でならない。