ベテルギウス

 星野之宣2001夜物語』(双葉社)の中に「緑の星のオデッセイ」という話がある。
 時代は2400年代。人類はミュー駆動(ドライブ)というワープ航法を実用化し、多くの宇宙船が外宇宙に進出していた。コミックの吹き出しを引く。
《20世紀の宇宙時代開闢以来400年………人類進出の版図は半径150光年の空域に及んだ。いくつかの星系にロボットプラントがおかれ植民地が築かれる。人々は無数のきらめきに誘われ新天地を求めて星の海へ乗り出していった………古代人が海と大地を征服していったように――だが、しかし………異星は、地球とは違いすぎる――多くの植民地は、予想外の障害にあって放棄され、あるいは壊滅していった……人々はようやく疲れ始めたのだ。眼前の大宇宙はなお広大で深遠でいささかも近づくことはない……》
 宇宙の半径は470億光年とも言われているので、そこから考えれば150光年という人類の進出が目覚ましいものかどうかは疑わしい。コミックの中でも「確たる前進とは言えなかった」とある。宇宙時代のたそがれの時期が「緑の星のオデッセイ」の舞台となっている。
 物語はこうだ。
 地球外文明の探査をする「グランド・セチ計画」で十数隻の宇宙船が地球を飛び立った。その中の一隻がオリオン座ベテルギウス星系で未確認飛行物体に追い越される。その物体は地上からのレーザー・パルスの照射によって推進するいわゆる宇宙ヨットだった。理論的には、光速の70%ほどのスピードが出せるという推進システムである。そのレーザー照射の基を探せば、地球外文明に必ず遭遇する。探査船は、レーザー照射を続けるベテルギウス星系の惑星オデッセイに向かう。
そこで事故があって、数名の乗組員がオデッセイに不時着する。そこはアマゾンの密林のような緑の惑星であった。そこでは日常的にレーザー照射が行われているのだが、これが文明によるものではなかった。植物の光合成による営みが作り出した自然だった……。
 オデッセイ。超巨星ベテルギウスを回る地球型惑星である。主星のベテルギウスはすでに死にかけている。いずれすさまじい膨張が始まり重力崩壊をおこしオデッセイの軌道を呑みこんでいく。つまりオデッセイには未来がない。だから植物が自らの趣旨を惑星外に飛ばして種を保存しようとしていたのである。
この作品は星の末路を描いた名作だと思う。もちろん『2001夜物語』が全編を貫いて名作であることも間違いない。未読の方はぜひお読みください。

 なんでこんなことを書いたのかというと、今朝の朝日新聞の社会面に「ベテルギウス膨張 すでに爆発?」という見出しを見たからで、昨日の発掘で『2001夜物語』が手元にあったからに他ならない。
 更新が遅れたのは、朝、書き始めたのだが「あまちゃん」が始まったので、途中でパソコンから離れたことと、今日、出勤だったことを思い出して、そのまま家を出てしまったからである。ようやく帰宅し、今、アップできたのだった。めでたしめでたし。