玩物喪志

 昨日、名古屋吹上ホールで「なごや博学本舗」
http://hompo.net/
が主催するトークイベントがあった。テーマは「モダンナゴヤ考現学:近代は普遍か」というもの。講演者は、名古屋考現学の権威で『超日常観察記』などの著者としても知られる岡本信也さん、ご存知、評論家で封建主義者の呉智英さん、哲学者の加藤博子さんである。当初は、ほぼ呉さんの独走状態になると思っていた。ところが、岡本さんのゆったりとした語り口や、加藤さんの少し恥ずかしげだが理路整然とした話が、舌鋒鋭い呉節にうまく絡み合ってベストミックスされたトークライブとなった。こんなおもしろい講演会は久しぶりだ。何度も大笑いし、知的な刺激をたっぷりと受けた3時間半だった。

 
 さて、見出しの「玩物喪志」である。「がんぶつそうし」と読む。
 この言葉は呉さんの話の中で飛び出した。呉さんと岡本さん、そして岡本さんのお弟子さんの3人で打ち合わせをしているときに、岡本さんが「玩物喪志」を口にされた。「考現学の路上採集の際に、細かな部分に力を注ぎ過ぎて、真に大切なことを見失っている」というような文脈だったそうだ。
 そこでお弟子さんはキョトンとした。ワシャもそのお弟子さんをよく存じ上げているが、俊才な人である。でも「がんぶつそうし」と突然言われても……困りますわなぁ。
 そこを呉さんは見逃さなかった。「きみは玩物喪志も知らないのか!」と叱られたそうな。すいません。ワルシャワも「玩物喪志」を知りませんでした。
 これは『書経』の中に出てくる言葉である。
「人を玩(もてあそ)べば徳を喪(うしな)い、物を玩べば志を喪う」
 ううむ、まだまだ勉強が足りぬわい。一所懸命に覚えようっと。しかし、日暮れて道遠しの心境だなぁ(泣)。

 それはそれとして、このトークイベント参加は、とてもいい薬になった。詳細は別の機会に譲るけれども、なにしろ参加者がおもしろい。講師のお三方はもちろんなのだが、話を聞く側にも哲学者、考現学者、霊長類研究者、ライター、編集者、大学教授、元連合赤軍兵士などなど、多士済々なのである。
 崩れた帽子をかぶり、マフラーのようなネクタイをしめ、長い白髪をポニーテールにした初老の男性。
 喪服のような黒い着物に地毛で日本髪を結った年齢不詳の女性。
 27年間臭い飯を食ってきたスキンヘッドのオジサン。
 その他にも明らかに一般人ではない風貌の方々が居並んでいた。
 なんだか妖怪の集団のようですが、けしてそんなことはないんですよ。これがとても居心地のいい集団なんですね。この集団の中に身を委ねていると、「ああ、ワシャは平凡で卑小な人間なんだ……」と自覚することができ、妙な安心感を得ることができる。これがワシャの精神衛生上まことによろし。
 講話がおもしろく、メモもなかなかとれなかったが、それでも十枚にわたる走り書きが残せた。これを少しずつ咀嚼しながら楽しむことにしよう。

 その後、今池あたりのすし屋で、有志20人ほどで懇親会。あ〜楽しかった。