表現の不自由

 昨日発売の「週刊ポスト」の「ネットのバカ 現実のバカ」がおもしろい。もちろん言わずと知れた評論家の呉智英さんの寸評である。今回のお題は「表現の不自由と闘おう」だった。イタリアのチョコブランド「DOMORI」、武漢肺炎ワクチンを造るための「二重盲検法」、「盲腸」、「盲点」、「色盲」などを並べられ、表現規制の理不尽さを説く。

 とくに木山捷平の名詩の「メクラとチンバ」

https://ignis.exblog.jp/1117811/

を引いて、表現の自由の大切さを不肖の弟子に教示していただいた。この詩をワシャは初めて読んだが、いい詩である。映画「男は辛いよ」のラストシーンのように印象的に詩の情景が浮かぶ。さすが呉先生は博学だ。小林よしりんが「歩く百科事典」と評したくらいだからね。

 

 ワシャは木山捷平の熱心な読者ではない。しかし、講談社文芸文庫を一冊だけ持っていて、その中の「還暦の旅」という短編が気に入っている。たまたま出雲旅行の話で、ワシャが松江に縁者がいるので、なんとなく風景が浮かんできて好きな作品なのだ。この一作でもよく分かるのは、木山がきめ細かく人物評価のできる人だということである。松江のタクシー運転手とのやりとりなどは実に巧い。

 

 おっと、「表現の不自由と闘おう」だった。呉さんは《簡潔素朴は表現でありながら胸を打たれる名品》と評価しつつ、日本共産党に呼びかけている。共産党の基本書である『上部構造と下部構造の破行的進行』や『共産主義における左翼小児病』などが「不自由」なってはいけないので、私(呉)と手を組もうと。コラムはこう結ばれている。

《私と共産党では世界観が大きく異なっているが、大異を捨てて小同に就こう。表現の不自由と闘うために・・・》

 もちろんこれが呉さんお得意のアイロニーであることは言うまでもないけれど。

 

 4つ前のコラム(連載196回)で呉さんはこう言っている。

《私の評論分野のひとつはマンガだが、マンガはこれまでしばしば「表現の不自由を強いられてきた。警察、婦人団体、教育団体などがその主役で、共産党系文化人もこの風潮に同調的だった。共産主義の本家ソ連支那北朝鮮では、そもそも表現の自由など存在しない》と。

 真の意味で、「表現の不自由」と闘う覚悟が共産党にあるとは思えないのであった(笑)。