天声人語の手抜き

 コラムニストの勝谷誠彦さんが有料メールで、今日の「天声人語」に触れていた。朝日の看板コラムが「歩きスマホ」を話題にしたのである。このことに関して勝谷さんは、いつもよりも好意的だ。
 その代わり「スマホいじりの馬鹿」には厳しい。
《東京駅のどうしようもないカフェでも隣に座った売春婦のよう服装の10代らしき女二人は、向かい合ったままずっと黙って自分のスマホをいじっていた。人間としてコミュニケーション不全の治療を受けた方がいいのではないか》
 そして《まさに亡国の事態》と締めくくっている。
確かに、このところ電車に乗っても、スマホをずーっといじっている若者が増えてきた。明らかに奇異な景色と言っていい。でもね、そんな中で、文庫を開くお嬢さんがいたりするとホッとするものである。少なくとも、車内で読書をする人もごくわずかだが、生き残っている。頑張れ読書家たち。

 今朝の「天声人語」にはワシャも引っかかった。それはスマホのところではなく、冒頭の部分なんですけどね。少し引く。
《電車の中で化粧をする女性が出現したのはいつごろだったかと調べると、本紙「声」欄に1994年の投書があった。近ごろ多く見かける、と。》
 う〜ん……この天声人語氏の世間はせまい。自社の資料検索のみで書きはじめている。
新潮45』の5月号にパオロ・マッツァリーノさんが「怒らない、叱らない、注意しない」という文を寄せている。その中にこうある。
《たとえば、電車の中で化粧する女なんてのは最近の現象と思ってるかたが多いのですが、大正時代に実施された東京市のマナー調査にも、風紀の乱れとして登場しています。》
 1990年代どころの話ではないのである。傍若無人な人間は昔から数多いた。そのことを知っていて、なおかつ1994年の投書の話を持ってくるならば、もう少し書きようがあるだろうし、コラムの奥行きも違ってくるのに。

 天声人語氏、冒頭に続く文もやっぱり自社資料から引っ張る。
《一昨年には電車内で着替えたり、むだ毛を剃(そ)ったりする女子高生の目撃談が載っている》
 ううう、この情報もいかがなものか。そもそも2年前の話だし、投書の話だし、天声人語氏の見聞き、体験したものではないので、新鮮さも説得力もない。
 ワシャは2004年2月の日記で、電車内でジャージを脱ぐ女子高生を目撃したことを書いている。
http://d.hatena.ne.jp/warusyawa/20040228/1077971399
 女子高生の暴走は、天声人語氏の言うような昨日今日の話ではない。もっと以前からあちこちで見られた現象だ。高給取りなのだからもっとアンテナを高くして、文献を漁りなさいよ。それしか仕事がないのだから。