獣剣伝説

 まだ気持ちは北の大地を彷徨っている。『いしかりがわ』の関連で、書庫の奥から、村上もとか『獣剣伝説』(小学館)を出してきて読みなおした。このコミックが強烈で、そこから抜け出せないでいる。というか、身の回り、国の周りで嫌なことが立て続けに起きて、意識が現実逃避しているんですな(苦笑)。

 そういうことで少し『獣剣伝説』に触れたい。物語は明治7年の札幌に始まる。主人公は檜原真之助、父親は元会津藩士の剣豪で、薩長に忌み嫌われた存在だったが、現在は、札幌周辺に移り住んで猟師を生業としている。
「羆より狼より危なかぞ」と恐れられたその父が巨大な羆に食い殺された。父の敵をうつべく真之助は自らも猟師となり、北海道の山野を駆け巡るのであった。
 この話に出てくる地名は、札幌、そして羆が出没し馬6頭を食い殺された白石村の2か所だけである。あとはアイヌコタン(集落)や屯田兵村が出てはくるが、場所を特定するまでの情報はない。ただ、真之助が屯田兵からライフルを買う場面は、札幌近郊の屯田兵村なのだろう。
村上さん描く屯田兵屋は札幌市厚別区の「北海道開拓の村」そのものだった。屋内はそのまま写されている。村上さん、ここを訪れたか、あるいはここの資料を使ってライフル購入のシーンを書いたことは間違いない。因みに、この屯田兵屋は現在の深川市にあったものを移設したとのことである。
 また、特徴的な山の絵が何枚か描かれている。里に近い山は特定のしようもないけれど、高い山ならいくつか洗い出せると思って、早朝から山の本と首っ引きなんですが、なかなか特定できない。ようやくその山塊の形から恵庭岳と夕張岳が判ったくらいだ。
 このことから類推できることは『獣剣伝説』の舞台が、札幌を中心として石狩平野西部の山地、東側の夕張山地にわたる地域であるということである。明治初期の未開の大地で、真之助と巨大羆の死闘が繰り広げられた。

 もう一つ、羆つながりで言えば、吉村昭羆嵐』(新潮文庫)の舞台となったのが、苫前町三毛別川上流の開拓村だった。先月、仕事で訪った深川市とは、市境から町境まで10kmほどである。ただし、天塩山地を隔てた直線距離なので、羆か真之助でなければまっ直ぐには行けない。人間が行こうとすれば、天塩山地を東へ迂回するか、留萌まで出て海岸沿いを北上するしか方法はない。
 でも、「三毛別羆事件
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E6%AF%9B%E5%88%A5%E7%BE%86%E4%BA%8B%E4%BB%B6
の現場までこれほど近接していたとは……深川では想像もしなかった。仕事でなければ絶対に三毛別まで足を伸ばしていたのう。また北海道に電車で行きたいものだ。

 テレビをつければ、腹立たしいことばかりなので、ついつい現実逃避してしまった。