石狩川

 絵本が届いた。村松昭『日本の川 いしかりがわ』(偕成社)である。北海道出張から帰ってきて、新聞の記事下広告にあったので早速注文したのだ。ヒグマの神様とコロボックルの少女が、石狩川の源流から河口までを旅する物語で、石狩川の沿岸を紹介するという趣向である。
 いやー、これが楽しい本でしてね、神様と少女が雲に乗って空から案内をしてくれるので位置関係がよくわかる。石狩川の源流というか、北海道の大河はことごとく大雪山系にその源を発している。考えてみれば、渡島半島を除けば、北海道というのはすべて大雪山に連なっているといっても過言ではない。
 ドラマ「北の国から」に出てくる富良野岳は、いつも富良野盆地から眺めていたので、まさか大雪山連峰の一翼を担っているとは思わなかった。
連山の東にある三国山に降る雪は、ほんの数センチの差で、太平洋に行くのか、オホーツクに流れるのか、はたまた石狩川をとおって日本海へ注ぐのか、ここが運命の分かれ道、というようなこともこの絵本を見ていて実感することができた。
また、朝散歩をした深川市界隈、深川神社も深川橋も描かれていて、およよ、懐かしいではあ〜りませんか。
深川市周辺には広大な圃場が描かれてある。この農地で「ゆめぴりか」が生産されているんだね。この米が美味いんですわ。内地産のコシヒカリでは勝負にならないかも。
この深川の場面で、少女と神様の会話がある。
少女「ほとんど人が住めないような土地を切り開いた人たちがいたんだね」
神様「このような田んぼや畑にするには、昔の人の大変な苦労があった」
少女「どこも木や草がびっしりいたんだろうね。クマもいたでしょうし」
神様「そうだ。ササやハギ、ヨシなどが生い茂った原野を、一生懸命切り開いたのだ」
 二人の掛け合いを読んで、函館本線の車窓に流れた穀倉地帯を想い出した。あののどかな風景の陰には、先人たちの血を吐くような労苦が隠されているんだろうね。
 村上もとかの短編『獣剣伝説』にこんなフレーズがある。
《出没する羆やエゾオオカミ等の猛獣との闘い。夏はブヨやヤブ蚊、ヌカ蚊などの虫が皮膚を刺し、さらに口や鼻さえふさぎ、呼吸も困難になってしまう。そのため炎天下でも袋をかぶり虫よけのたき火をしながら耕すので、あまりの暑苦しさに3〜4時間も働けばもう動けなくなる。(中略)そして冬は草葺の粗末な掘っ建て小屋ですさまじい寒気にふるえて耐えるのだ。》
 こうした艱難辛苦の開拓の歴史の上に成り立っている北海道なのだが、現在の状況もけっして楽観できる状況にはない。季節のいい時に出かけて「北海道はデッカイドー!」と叫んでいればいい内地人には見えない部分で大変なのだ。北海道の大方の自治体の財政状況は悪い。夕張の一歩手前くらいの自治体はざらにある。自主財源で立っていける町は177自治体のうちで数えるほどしかないだろう。札幌市にして、財政力指数は0.7というから国からの交付税措置がなければやっていけない。
 そんなことを思いながら、石狩川の流れる雪の札幌の俯瞰絵を見ていると、観光では見えない北海道の悲しさのようなものが立ち上がってきた。