魑魅魍魎

 魑(ち)は虎の形態をした山神、魅(み)は人間の体にイノシシの頭を持つ沢神、魍魎(もうりょう)は鮫龍(みつち)、つまり龍の形をした怪物のこと。昔はこんなのが、山や川、森や沼、いたるところにいて、人に害をなした。
 しかし、最近はどこもかしこも開発されて、魑魅魍魎の住処がなくなってしまった。だから、最近は人間の姿を借りて、都会に紛れ込んで生きている。こいつなんかもそうだ。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120622/crm12062208530009-n1.htm
 まちがいなく魑魅魍魎の類である。

 昔の人びとは怪異に対して強い警戒心を持っていた。いたるところにタブーが存在し、魑魅魍魎に取り憑かれないようにした。「川女郎」に遭えば、精気を抜かれてしまうので、すぐに目を逸らし、下を向き、息を殺してその場から逃げなければいけない。「針女」に追われたら、障子戸ではなく板の大戸を閉めるように言われている。「ダキ」の棲む島で漁をするときには、碇を下ろすだけでトモ綱はつけてはいけない。
 こういった禁忌が数多あり、それに従って生きることで、魑魅魍魎をうまく避けて生きてきたのだ。

 残念ながら被害者は、魑魅魍魎が跋扈する時間帯に、魑魅魍魎がオートロックを開けたタイミングを利用して、元彼の住むマンションの入り口を通過した。そして魑魅魍魎の見ている前で、己の行き先の部屋番号の郵便受けから鍵を取り出している。
 都内には、数千円出せば泊めてくれる宿はいくらでもあるだろうに。

 魑魅魍魎は今でもそこいらじゅうにいると思った方がいいだろう。奴らは平凡な市民を装って、人が隙をみせるのを虎視眈々と狙っている。