文化祭今昔

 昨日、所用があって某高校の文化祭に顔を出した。
「え、今時分に文化祭?」
 最初、誘われた時には違和感を持った。そもそも文化祭というのは「秋」の季語だろう。なぜ、梅雨の最中に文化祭をやるのか、よく分からない。
 訊けば、秋は体育大会やらコーラス大会などの事業が目白押しで、文化祭が春に押し出されたのだそうな。それも教師に土日出勤をさせないために、現在では平日1日だけの開催となっている。平日開催なので、他校の生徒との交流はできず、来客はもっぱら父兄に限るという。その中に関係者ということで、ワシャらのような一般人が、ごく少数混じっているくらいのことだ。だから、父兄参観日の拡大版のような様子だった。
 ぐるっと校内を見てまわる。どの教室も大したことはやっていない。申し訳程度の壁新聞が張り出してあったり、作品展示室も、机が部屋の片隅に積み上げられ、掃除中かいなと思わせる教室で、作品と呼ぶにはお粗末なシロモノが並べてあるだけ。こんなようなことは昔、小学校でやっていたような気がする。
 結局、閉じた空間の中で、自校の生徒相手、父兄相手では、この程度のお座なりなものになってしまう。お義理でやる文化祭なんて時間の無駄だわさ。
 それでも同行した部下たちに確認すると、新興進学校ではおおむねこんな閉じた文化祭ばかりで、開催も平日でひっそりと行なうのが定番だという。
 そんなもんですかね。
 ちょいとワシャらの頃の文化祭にタイムスリップしてみましょうか。

 開催は、10月中旬の土、日曜日である。ちゃんと季語にあわせて秋開催、その上にフルオープンである。他校からどんな不良が押し寄せるか判らないが、それでも受けて立つ気概が教師にも生徒にもあった。
 内容は、しょぼい壁新聞や作品展示だけではない。張るなら張るで、壁全てを壁新聞で埋めたし、作品展示も、これでもかと言うほど並べられた。そして人気のある女生徒の作品は飛ぶように売れた。時には盗まれたりもしたが、そんなことはお見通しで、人気女生徒の作品は次から次へと展示され、どんどんファンの男子生徒に売られたものである。もちろんそんなに彼女の作品があるわけがない。だから、ワシャらの書いた絵や習字に女生徒のサインだけを入れて売ったのだった。これは儲かったなぁ(大爆笑)。
 ディスコも開店した。これは他校の男子生徒に人気があった。なにしろ百円から五百円(相手によって値段が変動するシステム)で、かわいい女子高生と一緒に踊れるのである。ワシャのグループのごついヤツ数人を選抜して、木戸番をやらせた。他校のヤバそうなのがくると「ここはブスばっかりだから茶道部のほうがいい娘が揃っているよ」と指導部の監視のきつい棟に回してしまう。気の弱そうなオタクっぽいのが来ると、「兄さん兄さん、かわいい子がいまっせ」と五百円をいただいて、「ご案内〜」ということになる。仲間の女生徒にこんな店を2店舗ほど開かせていたので、その上がりはウハウハだったのう。
 また喫茶店もあった。これも綺麗どころに可愛いエプロンをさせて1杯200円のコーヒーをビスケットつきで売りまくった。なにしろ憧れの〇〇ちゃん、☆☆ちゃんたちが、接待してくれるのである。ここも自他校かかわらず男子生徒が殺到したなぁ。
 女生徒向けには占いの館が人気だった。暗幕を張り巡らし、その中に占い好きなオタクを5人ほど配置しておく。占い自体は無料にして、次から次へと女生徒を誘導し、出口のところで、ご芳志をいただけると「神秘の石」というのをお渡しした。これは人気がありましたぞ。白いきれいな石で、実は前日に中庭から拾ってきたもので、なにしろ元手がかかっていない。でもね、中庭にはキツネの神様が住んでいて、そこの砂利なので、ありがたいお守りなのであ〜る。
 女生徒はお化け屋敷なんかも好きだった。やはり暗幕を張り巡らし、教室内を段ボールで仕切って迷路を作る。そのところどころに、おどかし役として男子生徒を配置するのだが、これまたやりたいヤツが殺到した。仕方ないので、有料にしたが、それでもやりたい野郎が多いのには困ったものだ。最初は300円くらいだったが、パチンコに狂っていた男が千円を提示したために相場が上がってしまった。ワシャしてはありがたいありがたい。お化け屋敷の中からは「キャー!」とか「ヒー!」とか絹を裂くような声が聞こえてくる。うむうむ大成功のようだ。
 これだけは言っておきますが、おどかし役には、ぜったいにお客様には触れないように注意をしてありました。しかし、言うことをきかないヤツもいて、パチンコ野郎もそうだったのだが、女生徒にタッチしてしまった。丁度、ソフトボール部のごつい姐さん方だったので、パチンコ野郎は反撃にあいボコボコにされてしまった。ソフト部をなめてはいけない。それでも千円男、ボロボロになりながらも嬉しそうでしたね。M男くんなんでしょうか、いやいや青春なんでしょう。
 その他にも映画館もあったし、寄席もあった。コンサートホールもフリーマーケットもあったし、ファッションショーまであった。
 ワシャらのグループはというと、直営店を5軒経営し、その他の店舗からは、他校の不良が来て問題を起こした場合の警備対策費としてわずかな金額をいただいていた。ただし、いつもお弁当を回してもらってお世話になっている家政科の店舗は、もちろんロハでやらせてもらう。
 文化祭は生徒会主催である。文化活動の一環なので、生徒会から一定の補助がでる。そもそも営利目的ではないので、なかなか儲けはでない。最終的に、各店舗は収支決算書を生徒会に提出し、赤字ならば補助金返還はなし、黒字ならば、運営費など必要経費を差し引いて儲かった部分を生徒会に上納しなければいけなかった。
 
 誰がそんなバカ正直なことをしまっかいな(笑)。

 楽しみながらも一所懸命に営業活動をやったのだ。収益が上がればそれは頑張った人にこそ還元されるべきである。文化祭のあと、仲間と一緒に焼肉を腹いっぱい食べたのだった。労働のあとの冷たい一杯はたまりませんなぁ。おっと、高校生ですからね、ビールじゃありませんよ。カルピスカルピス。

 それにしても今どきの高校生、全体的に幼くなっているように感じた。覇気もない。文化祭くらいもっと弾けるように楽しんでもいいのではないか。そんなことを思っていた。