危なかった

 日曜日に西尾城界隈を散歩したことは昨日書いた。その折、街角に古書店があったので立ち寄る。
 西尾の町を東西に貫く幹線沿いのこの店は、以前にも来たことがありますぞ。あの時は、長篠合戦の資料を集めている時で、長篠城攻防戦で功績のあった「鳥居強右衛門」という武士のことをネット検索していたら、この店がヒットした。近くだったので、ネット注文するのがまどろっこしくて車でやってきたことを覚えている。その時、購入した本は、『烈士 鳥居勝商』(宝飯翼賛文化協会)、昭和16年発行で、売価が1円50銭。それに3000円を支払った記憶がある。

 中に入ると、おおお、久しぶりの古本屋臭がする。この臭い、ワシャ的にはけっして悪い感覚ではない。おお、本の品ぞろえもブックオフとは一味も二味も違う。これが蓄積された文化の香りなのである。
 物色しているといろいろおもしろい本があった。ここは郷土史が強そうだ。地元の本を求める時には、また来店することにしようっと。
 この後、西尾駅界隈でちょっと飲んでいくつもりなので、本を買い込むと荷になってしまう。だから、遠慮して一冊だけ購入した。
 日本古典文学全集の中から『歌論集』を選んだ。かなり汚れているが、本は消耗品だと思っているのでさほど気にならない。
 内容は、『金葉和歌集』の撰者である源俊頼や、『新古今集』の撰者、藤原定家などの和歌に対する評論集である。
 例えば、定家が紀貫之をこう評している。
《貫之、歌の心巧みに、たけ及び難く、詞強く、姿おもしろきさまを好みて、余情妖艶の躰をよまず》
 てな具合ですわ。
「貫之は、歌の趣向の立て方が巧妙で、声調の張りがずば抜けてすぐれ、詞のあらわす意味が明確で、従って一首全体から趣向のおもしろみが感じられる、そういう歌いぶりを好み、しんみりとした風情、なまめかしい艶やかさを捨ててしまった」
 というような意味でゲス。
 ううむ、なかなかおもしろい。

 さて、店内を物色していると『南吉研究』という箱入りの本を見つけた。全4巻である。値段をみると4巻で1万円である。なるほど、この手の資料としてはそんなものだろう。とくに痛みもないし、中を確認するが線引きなどもない。
「買うか」
 今、童話作家新美南吉の資料を集め出している身としては欲しいなぁ。しかし、今日は本漁りに来たわけではないで、箱入りの重い本を5冊ももって歩くのは厳しい。結果として購入を止めて『歌論集』だけを抱えて、居酒屋にむかった。

 これが正解だった。
 翌日、つまり昨日になるのだが、社に出勤して南吉に詳しい人間に『南吉研究』の話をすると、
ワルシャワさん、それでよかったですよ。『南吉研究』は今でも売っていて、その4巻ならまとめて3000円で購入できます」
 と言うではあ〜りませんか。

 危なかった。もうちょいで3000円の本を1万円で買うところだったわい。