魚町能面春虫干(うおまちのうめんはるのむしぼし)

 日曜日はあいにくの雨だった。でもね、雨にも負けず、ワシャは友だちとJRに乗って豊橋にでかけた。
この日、豊橋駅東の魚町にある神社の社務所で、吉田藩(豊橋市)に伝わる能面の虫干しが行われる。室町から江戸にかけての古能面が直に拝見できるである。これが見たかった。
 とくに昭和17年に国の重要美術品に指定された「平太」「小飛出」「大天神」「小べし見」「姥」「山姥」の6面を楽しみにしている。

 豊橋駅を東に降りて、デッキをわたり、広小路通りをまた東へ。そのまま素直に東進していればよかったのだが、すこし行くとアーケードが目に入る。雨を避けようと、そこを曲がる。ときわアーケードという通りなのだが、100mほどで屋根は尽きてしまって、結局は傘をさすことになった。ここで、自分の位置を見失ってしまった。
 お寺の多い萱町付近で、通りかかった若者に道を尋ねる。長身のイケメンニーチャンは懇切に道順を教えてくれた。おかげでなんとか目的地の安海熊野社(やすみくまのしゃ)
http://www.mikumano.net/zaiti/toyohasi1.html
にたどり着いたのだった。上の写真を見ていただくと、鳥居から参道の階段が延びているでしょ。その右手にRC造のお社があるのだけれど、その1階が集会場のようになっている。そこが虫干しの会場だった。雨なのに、虫干しというのも……とも思ったが、この大らかさが、豊橋の良さなのかもしれない。文化財の少ないワシャの町なら、湿度がどうの、人の手がどうのと大騒ぎになりそうだ。

 以前、名古屋能楽堂新作能面を見たことがあったが、どれもこれも面に魂が宿っていなかった。それに比し、何度も人がかぶり、舞台に上がった面はにらみ合うと吸い込まれそうになるほどの魅力がある。時にして600年、能楽師、何百人もの精進が小さな面に込められているということだろう。
 丹波篠山では、由緒ある古面を見たことがあるが、その時は、能面はガラスケースの向こうに納まっていて、残念ながら間近に見られなかった。しかし、ここでは、まさに頬を寄せて食い入るように能面を鑑賞することができたのである。魚町能楽保存会の皆さん、ありがとう。あ〜楽しかった。