お能は楽し

 名古屋城正門前の能楽堂で、名古屋宝生会の定式能があった。

 JR、地下鉄と乗り継いで市役所駅で降りる。瓦葺の7番出口を上がると、小雨が降っている。曇りの予報だったので傘がない。7番出口から、能楽堂まで800mほどあるだろう。小雨とはいえ「春雨じゃ濡れてまいろう」と言うわけにはいかぬ。
 この周辺は官庁街でコンビニも見当たらない。友だちと「どうしようか」と迷っていたら、大津通りの向こう側に国立名古屋病院が見えるではあ〜りませんか。
 ワルシャワは「!」と閃いた。病院だ。病院には売店がある。売店には傘が売っている。友だちと階段を駆け下り、駆け上り、病院の正面玄関を入って、めでたく売店で傘をゲットした。
 雨に濡れる名古屋城の石垣とその向こうの天守閣を右に見ながら出来町通りを西に歩く。う〜む、雨の名古屋城もなかなか風情があるわい。
 能楽堂に到着し、能楽堂に隣接するお食事処「城」できしめん御前をいただく。このきしめんと炊き込みご飯がおいしい。食事をすませて、能楽堂に移動したのが午後0時15分、開演が1時なので、まだまだ時間がある。正面のいい席を押さえておいて、展示室で開催中の「新作能面展」をのぞく。「大癋見(おおべしみ)」、「大飛出(おおとびで)」を始め数々の新作能面が並んでいる。揃いも揃って力作ぞろいだが、丹波篠山の能楽資料館で見た古面には及ばない。暗い部屋でじっとこちらを見つめる「三光尉(さんこうじょう)」の面には鳥肌が立ったことを思い出す。やはり能面は何度も舞に使われて年季を経て魂が宿るものだと思っている。その点、新作能面はまだまだ若い。

 さて、お能である。「玉葛」は「源氏物語」の「玉葛」に材をとっている。いい話なのだが、いかんせん静かなお能であるために、気絶する客が続出だ。ワシャもついつい幽玄の世界に入り込んでしまったわい。
 反対に「国栖」は良かった。天武天皇を守る老夫婦と追手のやりとり、中入り後の天女の舞と、蔵王権現の祝福の舞も迫力があっていとよろし。

 帰り道、金山あたりでちょいと一杯、あ〜楽しかった。