女子社員の噂話

 会社の女子社員がワシャの噂をしているという。それはなんだかうれしい。でもね、大した話ではないようだ。
「ねえねえ、ワルシャワさんって、朝、出勤する時に自転車を押して歩いているのよ。それだけじゃなくって、自転車を押しながら本を読んでいるのよ。変でしょ」
 女子社員の中にワシャと通勤経路が一緒の人がいる。そういえば、時折、自転車道で追い越されることがある。
ワルシャワさんの家は、会社から自転車で10分くらいでしょ。だから自転車で昼休みに家に戻っているんだって」
「それで自転車が必要なのね」
「だったら、会社の駐輪場に自転車を置いておいて、朝晩は歩いてくればいいのに」
「そうよね。なにも朝晩、自転車をひいてくることもないのにね(笑)」
「そのうえ、二宮金次郎でもあるまいに歩きながら本まで読まなくってもね(大爆笑)」
 ワシャはその現場にいたわけではないので想像で書いている。多少違うかもしれない。違っていたらごめんね。

 確かに上記の噂は事実である。ワシャは朝晩、自転車を押しながら自転車道を歩いている。少し言い訳をさせてもらいたい。
 まず、歩くのは健康のためである。そのくらいしか、運動らしいことができない。出勤すれば会議、協議、打ち合わせで、ずっとしばられてしまう。だから、朝晩はできるだけ歩くことにしている。
 だったら、自転車なしで歩けば……と思わないでもない。自転車を押して歩くなど格好が悪いからね。しかし、ワシャはなにしろ荷物が多い。仕事関係の資料やら、本やら、ときにはパソコンまで持って出勤する。大きな鞄のほかに手提げ一杯の書籍・書類などけっこうな重量を運搬しなければならない。これを手に下げて歩くのは大変だ。自転車のカゴに入れて運べば、負荷は自転車にかかるから、ワシャの腰には負担がかからない。
 昼に自宅に帰るのも言い訳をしておこう。自宅には書庫があって、しょこには仕事関連の蔵書も多い。例えば、仕事上で、童話作家新美南吉の昭和16年4月19日の行動について話題に上ったとしよう(どういう仕事をやってんねん!)。昼に自宅にもどれば、『校定南吉全集』(大日本図書)が置いてあるから、それを繰って、その日、南吉は、刈谷の女学校にいたことがわかる。もちろん全集を会社に持っていけばいいことなのだが、そんなスペースはない。ネットの中にも詳細で正確な情報は存在しないから、昼休みにせっせとペダルを漕ぐことになる。

 自転車を押しながら本を読む話にも言い訳をしておこう。確かに読んではいる。しかし、歩きながら本を読むときは、たまたま朝読んでいた本が面白く、どうしても結末まで読みたい場合や、当日の仕事に関わる書籍にざっと目を通しておきたい時などである。
やはり天気の良い日などは、青空を見上げながら胸を張って普通に歩いている。どうでもいいことながら付け加えておく。
 
 でね、もしワシャにあだ名を付けるとしたら、「金次郎」などと付けるのは止めてほしい。できれば「二宮くん」とか「ニノ」と呼んでほしいのだった(笑)。