鶴光という怪物

 その驚愕の深夜ラジオは1974年に始まった。「笑福亭鶴光オールナイトニッポン」である。「あのねのね」のピンチヒッターで登場した鶴光は、そのエロさでブレイクして、深夜に悶々としている男子学生たちを慰めたものだった。
 現在、「金麦」のCMで流れている「ビタースウィート・サンバ
http://www.suntory.co.jp/enjoy/movie/viewer/alcohol_high_hd.html?hd=978670892001&sd=978670890001
を聴くと、檀れいではなく、どうしても鶴光を思い出してしまうから悲しい。鶴光のあのだみ声で「あっふ〜ん」とか「いや〜ん」とかラジオから流れてくると、ボリュームを下げて聞き入ったものだ。覚えがあるでしょ、男性諸氏(笑)。

 昨日、その鶴光以下、弟子の学光(がっこ)、和光(わこう)、明光(あこう)が出演する一門会があった。
 それがあの台風である。
 午後1時の段階で西三河は暴風と暴雨の真っ最中。一門会の開催事務局に電話をすると「何があってもやる」とのこと。頼もしいのはうれしいが、それにしても新幹線は停まっているし、在来線も不通となっている。大丈夫かいな、というのが本音だった。
 しかし、事務局の執念は恐ろしい。なんと、午後5時には西の空から陽が射してくるではあ〜りませんか。吹き戻しの風が少し残っているが、雨は完全に上がった。喜び勇んで落語の開催されるお寺に向かいましたぞ。
 
 すでに友だちが先行している。椅子席の最前列を確保してくれていたので、ありがたい。お茶を飲みながら、しばし開演を待つ。
 午後6時半、事務局の番頭さんが、舞台の脇に現れた。
「え〜、お客様に申し上げやす。鶴光師匠は名古屋でお仕事でしたので、すでにこちらにご到着されています。ですが、お弟子さんたちが、東京や関西のほうから、こちらに向かっている途中でございます。交通機関の乱れもあって、まだお二人ほど到着をされておりません。このため、本日の演目は台風の影響で若干差し替わることをお許しください」
 とのこと。聞けば、和光と学光がまだらしい。
 おっと、これは鶴光ファンとしてはラッキーだ。弟子が二人来なければ、まともに話のできるのは、鶴光しかいない。鶴光の話がたっぷりと聴けるわ〜い。
 午後6時40分に少し遅れて会は始まった。前座の明光が、遅刻している兄弟子をくさしながら笑いを取り、その後に、もう鶴光が登場する。しかたないわさ、もう鶴光しかいないのだから。
鶴光が高座に上がると、いやー、もう笑いっぱなし。まさに35年前のオールナイトニッポンのノリそのままの話術に魅了され40分の噺があっという間だった。
 その後、京都から7時間をかけて三河安城までたどり着いた学光が、腹話術でご機嫌をうかがった後に、また鶴光の登場となる。ファンとしては二席堪能できるわけで、これはうれしい。
 基本的に鶴光は落語の出来などどうでもいいのである。あのはちゃめちゃな話芸、徹底的にいいかげんな話しっぷりは、往年のオールナイトニッポンを知る世代にはたまりません。
「あたいはあたいだ。そーでっしゃろ」
 落ちもギャグもなにもいらない。鶴光がいい加減な話をするだけで、腹がよじれる。ストレスがみんな剥がれ落ちていく。あ〜面白かった。