どんなに歪でも至宝は至宝 その2

(上から続く) 
 海老蔵の酒癖の悪さを並び立てて、犯人への同情論が世間様に広がっているようだが、それは間違っている。酒を飲んで口論になることもあるだろう。時には掴み合いになることだってある。しかし、海老蔵に加えられた暴行は、通常の暴力の限度を超えている。この凄まじいリンチは被害者にどんな落ち度があろうとも許されるものではない。
 そして、この犯人は極めて残虐だ。このことを世間様は忘れてはいけない。歌舞伎役者の顔を攻撃するということは、ピアニストの指を折ったり、ランナーの足を折ったりすることと同じなのである。
 もう一つ、今回の暴行事件では、海老蔵が死ぬ可能性すらあった。もし、このバカが海老蔵を殺してしまったとしたら、歌舞伎の名門の市川団十郎家は断絶、歌舞伎ファンがこの後、40年も50年も十一代海老蔵、十三代団十郎の演技を堪能する楽しみを奪い、歌舞伎の歴史に悲しい事件を書き込むことになってしまっただろう。薄っぺらな友情にチンケな正義感を暴発させた犯人は、己の仕出かした歴史的な愚挙の大きさにおそらく気づいてはいまい。要するにバカということである。
 佐久間象山を暗殺した河上彦斎坂本龍馬を殺害した見廻組、大村益次郎を葬った海江田信義大久保利通を襲撃した島田一郎、これらの暗殺者たちは、己が歴史に刻んだことの大きさを死ぬまで理解できなかったであろう。
 海老蔵を襲った26歳のはんちくな野郎には、無知蒙昧な幕末のテロリストと同じ臭みを感じる。
 以上の理由から、世間様がどう言おうと、ワシャはこの犯人に一片の同情も寄せないのだった。