谷よしのさん その1

 本を読んでいると、その内容が何かしら他のこととつながっていくので楽しい。
 宮本輝『約束の冬』(文藝春秋)を読んでいて、物語の中に岡山県総社市が出てくる。その場面に差し掛かった時、脳が「!」となった。最近、どこかで「岡山県総社市」という地名を目にしている。脳味噌がワサワサとその記憶を検索し始めた。
 そして思い出したのだ。先日、倍賞千恵子さんの講演会に行った。その前に、予習と思って、何冊かの関連本を引っ張り出して読んだ。その中に1996年9月7日発行の「サンデー毎日」があって、その号の特集が「寅さん追悼」だった。その雑誌のページを繰っていて、位牌の写真に出くわしたのである。その位牌にはこう裏書きされていた。
「昭和五十八年一月二日 岡山県総社市にて 朋友渥美清と之を作る」
 これは渥美さんと親友である関敬六さんが、「男はつらいよ」第32作で総社市を訪れた際に「いつ死ぬかわからないから」と2人で作ったものなのだという。この写真の「総社市」という文字が脳裏に残っていたんですな。

 引っ掛かりが消えたので、再び『約束の冬』を読み始める。さほどページを繰らないうちに、また「!」が来た。こんどはこんなフレーズが気になった。
《桂二郎は妻がなくなる二週間ほど前に言った言葉を思い出したのだった。
「あなたがおっぱいにさわってくれなかったから……」
 乳癌の小さなしこりを最初にみつけるのは、本人ではなく夫や恋人といった男性である場合が多いという話をどこかで聞いたらしい妻の冗談だった。》
 このフレーズとつながったのが、これまた倍賞さんの講演中の「7年前に乳癌の手術をした」という発言だった。
 講演会の最後に、倍賞さんは会場からの質問を求めた。その中に「男はつらいよ」の映画に脇役として出演していた「谷よしの」という女優のことについての質問があった。そのことまで連想して今日のタイトルとなっている。あ〜長かった。
(下に続く)