こんな月、見たことない

 星野之宣のコミックに『妖女伝説』(集英社)がある。ワシャは星野の作品群はことごとく名作だと思っているが、とくにこの中に収められている短篇の「月夢」は素晴らしい。
 未読の方がいるかもしれないのでストーリーは言わない。でも、ファーストシーンだけ紹介すると、こんなんですわ。

 米国の月面着陸船が月に到着する。その船にドクター・サカキという名の日本人が乗っていた。彼は月面に降りるやいなや、半月ならぬ半地球に照らし出される砂漠を、その先に広がる闇に向かって走り出すのだった。

 この先に、意外な物語が月と地球で繰り広げられていくわけだが、そちらの方はコミックを読んでいただきたい。

 さて、なんでそんな話をしたかと言うと、先日、本屋をうろついていたら面白い本を見つけた。その本を手に取って、冒頭の「月夢」の話を思い出したというわけである。
 その本は、JAXA編『月のかぐや』(新潮社)という。
 内容は、2009年6月に使命を果たし月面に落下した月周回衛星の「かぐや」が撮影した月の写真集で、そこにはドクター・サカキが目にしたであろう月の砂漠が何枚も写っていた。その中の1枚に「晴れの海」の東縁で、南北を山に囲まれた「タウラス・リトロー」という場所を撮影したものがある。「かぐや」は衛星軌道から撮影しているのだが、どういうわけだろう、その写真の視点は低い。ちょうど、砂漠に立って北の山地を見上げるような写真となっている。
 あの峰さえ越えれば……ドクター・サカキが恋い焦がれた……おっと、ネタばらしをしてしまうところでした。
 そんなイメージを膨らませてくれるいい写真集だ。是非、『妖女伝説』と合わせて読まれることをお薦めします。

 さてさて、その月面の話である。昔から月の地形図を見ると思うことがあった。
http://gisstar.gsi.go.jp/selene/Maps/Stereo_aw-50.gif
 これと同じ地形図が『月のかぐや』にも掲載されているのだが、右側の月の裏などは、どうですか?ワシャには宇宙の彼方から大軍団がやってきてムーンベース基地を無差別に空爆した痕のような気がしてならない。
 もちろん、この痕が隕石によるものだということは百も承知なのだが、太古の月で、月の人と異星人が宇宙戦争をした痕跡とするのもロマンがあって面白いではあ〜りませんか。あるいは愛しい地球を守るために月がその盾となって滅亡した。その生き残りが地球にわたって、かぐや姫伝承を形成していく、おおお、星野さんに描いてもらいたくなるような大作になりそうですな。←(朝からアホ)