錦秋の歌舞伎 その1

 夕べ、歌舞伎研究会の皆さんと、御園座の「吉例顔見世」に行ってきましたぞ。夜の部は「舞妓の花宴」(しらびょうしのはなのえん)、「伽羅先代萩」(めいぼくせんだいはぎ)、「身替座禅」(みがわりざぜん)、「弁天娘女男白浪」(べんてんむすめめおのしらなみ)の4つ。大きな演目は「先代萩」と「弁天娘」こと「青砥稿花紅彩画」(あおとぞうしはなのにしきえ)だが、どちらもダイジェスト版となっている。名場面だけを切り取ってあるので初めて歌舞伎に触れる人にはちいっとばかしわかるめぇ。
 物語を無視してしまえば、鼠が走り回ったり、スッポン(花道の穴)から煙が出て仁木弾正が現れたりと、それなりに楽しめると思う。

 ダイジェスト版のような御園座歌舞伎だが、顔見世ということであるならそれも仕方ない。でもね、結構、観るべきところもあって、ワシャ的にも楽しかったのだ。
 まず、「先代萩」である。善玉コレステロールの乳母(めのと)政岡を藤十郎が演じている。政岡はこの場面で、敵役の八汐(段四郎)に一子千松を殺されてしまう。正岡は、ある事情があって衆人環視の中では表情一つ動かさなかったのだが、周囲に人がいなくなると、一人の母にもどって嘆き悲しむ。
 この嘆きの演技が凄まじい。主人のために己の命を捨てた千松を抱きかかえ悲嘆にくれるのだが、藤十郎、真実、涙を流していた。目の下に紅を入れいているのだが、その紅が両目とも一本流れていたのである。汗ではない。確かに涙だった。ううむ、さすが人間国宝、少し見直しましたぞ。
 しかし、藤十郎の強烈で熱い演技を間近で見たあの子役はうなされないでしょうかね。
(下に続く)