本当は恐ろしいバッタ本 その1

 八幡和郎『本当は恐ろしい江戸時代』(ソフトバンク新書)を読んだ。いやー、凄い本でしたぞ。八幡さん、江戸時代を「現在の北朝鮮と同じだ」と言いきっている。
《そもそも、江戸時代と現在の北朝鮮はとても似ている。世襲の権力による支配、対外的に閉鎖された鎖国体制、それに伴なうモノの徹底した再利用、密告による体制維持等々――。江戸やピョンヤンという首都の市民を優遇することで、人々の不満が体制を脅かすのを避ける仕組みもそっくりである。》
 4ページにこう書いてあるのだが、もうここでウソやデマが満載なのである。
まず「世襲による支配」という点を考えたい。北朝鮮朝鮮労働党と人民軍が権力を掌握して、その双方の頂点に将軍様が君臨する。その将軍様が「総書記」や「国防委員長」を世襲しているわけだ。
 それに対して江戸時代はどうか。確かに八幡さんの言うとおり、徳川将軍家世襲だった。世襲であるという一点だけをかいつまめば、そりゃぁ一緒でしょうよ。でも、それならば「歌舞伎と現在の北朝鮮はとても似ている」とも言えるわけで、八幡さんの言っている「世襲だから似ている」ことにの根拠にはならない。
 第一、北朝鮮将軍様を神様として崇めているが、徳川将軍家を神様として崇めている人間などいなかった。江戸時代は、現在の北朝鮮と違って、人々はそれぞれの信仰を持って自由に生きていたからね。
(下に続く)