スーパーマンが飛んだ

 愛知県西三河の某市の副市長が4年の任期を終えて退任式に臨んだ。3月19日に「東京大学の使い道 その2」
http://www4.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=427365&log=20100319
で紹介した「消防団員キャリア」である。
 全国の基礎自治体を渡り歩いてきた彼は退任式のあいさつでこう言った。
「市民に感動を与えてください。予想をはるかに超えた時に人は感動をします」
「予想をはるかに超えたサービスをするには超人が必要ではありません。普通の人が並はずれたことをやればいい」
「こんな人を知っています。飲食業のオーナーの方なのですが、お客様が店から出て、車でお帰りになる。その時に店の外まで出て見送りをする。そこまではよくある話ですが、その人は、車が見えなくなるまでずっと見送っている。そして車が道を曲がって視界から消えると、深々と最敬礼をしたんです。普通の人が並はずれたことをすればいいんです」
「信じられないほどのサービスを受けた人は、そのことを人に話したくなります」
「顧客を喜ばせるために、ほんの少しだけ守備範囲を広げればいいんです」

 就業後、玄関前のロビーに市民や市職員たちが集まってきていた。副市長が退庁するのを見送るためにである。秘書課の職員が、玄関脇で花束を持って待っている。テレビで大臣の退任の折によくやっているでしょ。あの自治体版だと思えば間違いない。 
 そこに退任式を終え、副市長室で着替えをした副市長がロビーに現れた。そのとたん、ロビーに集まっていた市民、職員がどっと沸いた。
 副市長は、スーパーマンの格好をして現れたのである。ブルーのコスチュームに赤いパンツ真っ赤なマントをひるがえし、職員から花束を受け取ると、玄関の車留めに待たせてあったママチャリにまたがり、レース用のヘルメットとグローブを装着して走り去った。

 なんというキャリアだ。
 市民、職員は大爆笑で見送ったが、それぞれ皆が感動していた。

 彼は就任の4年間、広報誌に環境のコラムを連載し続け、市民や職員を啓発してきた。そのコラムの挿し絵が、マントをひるがえして空を飛ぶ少し頭の薄いスーパーマンを模した副市長の似顔絵だった。それを最後に再現して見せたのである。

 なんというサービス精神であろうか。

 流しの公務員は、桜舞散る中、爽やかな笑いを残して三河を去っていった。