幸福の黄色いハンカチ

 長男が東京から戻っている。でかいのが家の中をうろうろするので狭くてしかたがない。
 その長男が、暇つぶしにDVDを何本か借りてきた。その中に『幸福の黄色いハンカチ』が混じっている。懐かしいなぁ。山田洋次監督、高倉健倍賞千恵子武田鉄矢桃井かおりが出演、1977年製作、今から33年も前の作品だ。
 だんだん思い出してきましたぞ。学生時代にJR駅前の小便臭い映画館で、青い空を背景にして何十枚もの黄色いハンカチがはためくのを泣きながら観ていたことを……。
 その後、この作品はビデオになり、それをレンタルして何度も何度も観た。映画製作への道を諦めきれなかったワシャは、勉強のためにノートをとりながらシナリオを分析したものじゃ。う〜む、若かったのう。
 だから、この作品は細部描写までかなり消化している。シナリオを暗記しているといってもいい。それほどに観こんでいるにも関わらず、何度観てもやっぱり感動するんですね。
 それでもね、前回観た時から20年くらい経過しているので、今回はまた違った観方ができた。ドラマというよりもその背景となっている時代が面白くなってきた。昭和52年の北海道の風景や、若者たちのいかさないファッション、車だってマツダの「ファミリア」ですぞ。懐かしー!
 とくに今回目を引いたのが、夕張市の映像だった。夕張は昭和35年に人口のピークをむかえている。この時期に12万人もの人口がこの炭坑町にあったとは想像もつかない。それから15年、夕張から人口がどんどん流出していく。この映画が撮影された頃には、5万人にまで落ちこんでいる。それでも、繁栄した時期の残滓のようなものが、映像のそこここに残っており、辛うじて、商店街の活況が背景に見えていたりする。
 あれからさらに30年が過ぎ、現在の夕張の人口は、1万3000人である。ピークの10分の1となってしまった。
 鯉幟の棹に黄色いハンカチを括りつけてお互いの愛を確かめ合ったあの夫婦はその後、子供に恵まれただろうか。この30年で3万7000人の住民が夕張から消えていったが、その中にあの夫婦も紛れているのかもしれない。

 それにしても健さんが若い。46歳の健さんは格好いい。暗い映画館でワルシャワ青年は、「健さんのようなしぶい大人になりたいものだ」と思ったものだが、残念ながら健さんにはなれなかった。