さらば、同窓会 その3

(上から続く)
 3人目の校長は、市の教育委員会にも出向していた方なので優秀な教師であることは間違いない。だから「来賓祝辞」を楽しみにしていた。
 ワシャがマイクに向かって声を発する。
「来賓祝辞」
 校長が来賓席を立って、舞台脇の階段から上がっていく。
「新入会員起立」
 300人の生徒が一斉に立ち上がる。もちろん国母は体育館の後ろに不貞腐れて座っているが……。
 校長が演題に到着し居ずまいをただす。
「礼」
 国母以外の生徒が一斉に礼をする。校長がワシャに指示をくれるので「着席」の号令をかけて生徒を着座させる。
 いよいよ新校長の祝辞が始まるぞ。ワシャは生徒以上にワクワクしている。
「えー、本日、教室で配付しました同窓会入会式のしおりに、連絡先を書く用紙が入っていましたよね」
 おおお、話の始めかたが斬新だ。今までこんな始まりかたをした祝辞を聞いたことがない。ワクワクが倍増だ。
「えー、そこにみんなの住所と氏名と電話番号を書いてください」
 う〜む、なんだか事務連絡のようだが、祝辞なんだろうな。その内に子どもたちとワシャを感動させるフレーズが出てくるんだろう……と期待して待ったが、ずっと事務連絡のような話に終始した。ワシャはマイクを持ったまま転倒していた。
 校長にも当たり外れがある。今年の卒業生、国母も含めてだが、外れだった。こればっかりは運だからしようがないけれど……。

 入会式終了後、引き続き同窓会役員会が校長室で行われた。議題に役員の改選が出されたので、ワシャはすぐさま同意した。他の役員も同様に辞意を表明し、現役員全員の退任が了承された。
 11年に及んだ役からようやく解放されたわけだ。これで、この中学校に来る機会もなくなるだろう。少しさみしかったが、事務連絡を聴くために、また来年も中学校に通うのは少々苦痛だからね。

 朝からずっと雨が降っている。思い出してみると、過去10回の同窓会入会式でこんな強い雨はなかった。校門を出たところで振り返って、玄関で見送っている校長に頭を下げた。「さらば、同窓会」と呟いて職場に向かったのだった。めでたしめでたし。