まつわる本を読む

 今日は、民俗学者宮本常一の命日だ。だから、早朝から、宮本常一の著作を何冊か引っ張り出してきて読んでいる。
『忘れられた日本人』(岩波文庫)には、「名倉談義」という話が収録されている。この「名倉」というのは、愛知県北設楽郡名倉村(現設楽町)のことだ。この村には美味いマトンを食わせてくれる焼肉屋があって、時折、食べたくなると車を走らせて買いに行く。そんな土地鑑もあって、ぐいぐい読書に引きこまれた。
 内容は、昭和30年ごろに、土地の古老たちから聴き取った村の暮らしの様子である。彼らの語る明治、大正の村の生活は、現代人の感覚からいえば極貧の生活なのだが、それはそれで活き活きとしていて、村人がとても奥ゆかしく働き者だったことが語られている。完全な循環型社会が成立していることもわかる。
 また、この本には、三河の農業の父である山崎延吉のことにも触れており、読んでいて興味が尽きない。
 昨年、毎日新聞社が『宮本常一が撮った昭和の情景』(上下2巻)を発行している。それを繰っていると、昭和31年に撮影された名倉の写真があった。間違いなく上記の取材の時の写真ですな。板葺き荒壁の民家前で、数人の子どもが剪定枝から刀を作っている。彼らは手製の木剣をかざして朝から晩まで走り回ったことだろう。
 モノのないこのころの子どもたちと、娯楽のあふれかえった今の子どもたち、いったいどっちが幸せなんだろうか。朝から考え込んでしまった。
(下にもあります)