神具の買い物

 ワシャの書庫に「伊勢神宮」関連の本が何冊かある。

矢野憲一伊勢神宮』(角川選書

宮本常一他『お伊勢まいり』(新潮社)

伊勢神宮』(伊勢神宮崇敬会

『神宮』(神宮司庁)

伊勢の神宮』(神宮司庁)

『伊勢へ』(和楽別冊付録)

 この他にも伊勢神宮の特集が載っている『サライ5月号』(小学館)や、「神様」特集の『日本の神様のすべて』(宝島社)、『一個人』(KKベストセラーズ)、『おとなの神社入門』(TJMOOK)などが並んでいる。

 でもね、どの本を調べても神棚のまつり方や、それに必要なお供えものが記載されていない。唯一、一番安い『おとなの神社入門』499円に「神棚の祀り方」という記事があって、そこに「三社造り」とか「一社造り」の解説があったくらいで、例えば、神棚に並んでいる磁器の名前などはまったく解らなかった。

 とにかく何事も腹に落とし納得してからでないと、動きづらいワルシャワにすれば、とにかく神棚の真ん中で尖がっている白い器がなんという名前なのか知りたいわけだ。しかし、上記の書籍類を当たっても特定できなかった。

 仕方がないのであきらめて仏壇屋に行った。そしたらね、係のオバサンに相談したら、A4のチラシをくれて、それを見たら全部の名称が書いてあったのだ。神棚で尖がっていたのは「水玉」という水入れで、蓋の付いた徳利状のものが「御神酒壷」、それにお米の皿と塩の皿、両端にあるのが榊を立てる「榊立て」だった。

 こういうことが解り始めると、仏壇屋でも俄然おもしろくなる。お社も「屋根違い三社」とか「中神明」などいろいろとあって、見ているだけでも楽しい。

 ついでだから仏壇も見て回ったが、1000万円の仏壇なんてざらなんですな。それと比べればお社は2万円以下で手に入るので、神道がいかに手ごろで手軽なものかが理解できる。なにしろお社、お供えもの、御神札まで込みにしてそのくらいでもおさまった。

 仏壇屋でのエピソードをひとつ。

 ワシャが仏壇屋に入っていった時、先のお客は1人いるだけだった。係の女性が2人いたので、どちらかというと若い方の女性(とはいえ50代)が対応してくれた。この時点でチラシはもらっていないので、ワシャはこう説明した。

「え~っと、伊勢神宮でお社を買ってきたんですが、そのお社の前に並べるグッズがあるじゃないですか。それが欲しいんですが……」

 そうすると係の人はすべて察したようで、神具関連のコーナーに連れて行ってくれた。そして、基本形としての「水玉」「御神酒壷」「皿」「榊立て」を並べてくれた。大きさが大中小とあるので、それらの大きさの違いも示してくれて、「それじゃあこれでお願いします」ということになった。

 ちょうどその時分に、客対応をしていた年配の女性係員がやってきて、ワシャの対応っをしていた係の人と二言三言話をした。そしてワシャにこう言ったのだ。

「一度、神事を行う宮司さんに確認をされたほうがいいですよ。宮司さんによってはやり方が異なる場合もありますから」

 えええ、トータルでも2000円以下の買い物である。取りあえずフルセットを買っておけばいいなぁ……と思っていたので、またそれを宮司さんに確認するのは面倒くさい。でも、年配の係の人は譲らないので、ワシャはチラシをもらって店から出て、駐車場で宮司さんに電話をした。ワシャが買おうとしていたラインナップを説明すると「それでいいですよ」とのことだった。

 さっそく店にもどって、そのまま購入して帰ろうとすると、若い方の係員が駆け寄ってきて「お手間を取らせてすいませんでした」と声を掛けてくれた。いいすよ、5分かそこいらのことですから。その人こそ、自信をもって並べたお供えものを、先輩にダメだしされて傷ついたろう。

 ワシャは「いいえ、ありがとうございました」と会釈をして店を出ていったのだった。めでたしめでたし。