人間ドック(つづき)

日本の論点2010』(文藝春秋)に神戸女学院大学教授の内田樹さんが「労働観」についての論を寄せている。その中にこんなエピソードがあった。
 鳥の唐揚げを食うためにレストランに入った。1皿に3ピースが盛られている。7人だったので全員が食うためには7ピース必要だ。だから内田さんたちは3皿を注文する。
 その時にウェイターがこう言った。
「7ピースでも頼めますよ。コックに頼んでそうしてもらいますから」
 彼が料理を運んできたときに、同行していた武道家甲野善紀さんが彼にこう尋ねた。
「あなたはこの店でよくお客さんから『うちに来て働かないか』と誘われるでしょう」
 ウェイターはびっくりしながらも「月に一度くらいはそう言われる」と答えたそうだ。
 甲野さんの慧眼についてはここでは置いておく。問題はこのウェイターの控えめな気遣いである。こういった気遣いのできる人間が少しずつかもしれないが、社会を円滑に動かしているんだなぁと思った次第である。うまく説明できないが、わずか4ページの文章なので、書店に行ったついでに立ち読みでもしてくだされ。心がほっこりとしますぞ。

 おっと、人間ドックの話だった。
 以前にもこの総合病院の人間ドックを受けていたが、だらだらと半日を費やした記憶がある。ところが今回は早かった。それはね、ロビーの中央にいるコーディネーター役の看護婦さんが的確な指示を出していたからに他ならない。ワシャが胃の検診を済ませてロビーに顔を出すとマユミさん(※)のような看護婦が突進してきて、ワシャの検診票をもぎ取るようにして確認をする。そして17もある検診ルームを物色して、比較的空いているところを見つける。そこを指差すと「4番の聴力検査に行ってください」と指示を出す。この仕切りが見事だ。お蔭で検診は滞ることなく進んで、都合1時間半程の時間で終えることができた。
 機嫌のよい働き手とそうでない働き手でこれほどまで違うのかと痛切に感じたのだった。
 内田さんは『日本の論点』をこう締めくくっている。
《働くとどのような「よいこと」が世界にもたらされるのかを知っているのは、現に働いている人、それも上機嫌に働いている人だけなのである。》

※唐突に出てきた「マユミさん」については、奥田英朗イン・ザ・プール』(文芸春秋)をご覧くだされ。

 この後、大阪で開催される「読書会」に出掛けます。帰りは明日の夕方になるでしょう。このため明日の更新は遅くなりますが二日酔いではないので念のため。