ウシジマくんと阿久津五郎

 呉智英さんが『マンガ狂につける薬 下学上達篇』(メディアファクトリー)の中で、真鍋昌平闇金ウシジマくん』(小学館ビッグコミックス)を紹介している。今週の初めに9巻を読んだが、いやー、「下流な人々」を赤裸々に描いて底なしに救いようのない話だった。
 呉さんの文章を引く。
パチンコ依存症の主婦、見栄っ張りのOL、何の能力もなく努力もせず無根拠の全能感にひたる自我肥大のヒッキー、元恋人のカメラをくすねて売りとばすゲイ……。やはりクズとしか言いようがない。》
 ウシジマくんは、こういったクズに超高利な金を貸して苛烈に取り立てをしていく。ウシジマくんたち闇金業者は、客を「奴隷くん」と呼んで骨までしゃぶりつくす。そこには一片の情も介在しない。パチンコに狂う主婦の返済が滞ったとき、ウシジマくんはその主婦に○○○の△△△を□□□させて金をつくらせ返済をさせる。その主婦は半日で人相が変わってしまった。この手のエピソードが次から次へと展開される。3巻も読むと、気分が落ち込んでくるという恐ろしい作品なのだ。

 下流の人物を主人公にしたマンガに、ちばてつやのたり松太郎』(小学館)がある。主人公の坂口松太郎は手のつけられない乱暴者で九州の炭鉱町にある炭住に家族とともに住んでいる。あるとき地方巡業に来ていた大相撲の親方に見込まれて上京し、相撲取りとして成功していくというサクセスストーリーだ。
 この物語の中に、松太郎の伊勢駒部屋に入門してくる阿久津五郎という少年がいる。この少年もまた松太郎に負けないほどの底流に身を置いていた。父親は横浜で漁師をしている。妻に先立たれ子持ちの後妻をもらうのだが、五郎の兄は後妻に馴染めず反発してヤクザになって家を飛び出してしまう。幼い五郎は一人取り残され、結局、ぐれてしまい、暴力沙汰を起こして少年院に収監された。少年院から出院して、伊勢駒部屋に辿りつくのである。兄が上野あたりに事務所を構えるヤクザの幹部だということや、後妻の連れ子が暴走族ということもあって、五郎の周りには常に下流の臭いが充満している。しかし、五郎は必死に相撲に精進をして幕内力士までになる。全36巻の中では語られてはいないが、いずれ伊勢駒の娘の美也と結婚してを部屋を継ぐのは五郎だろうと思わせる話になっている。
 こういう話はほっとする。だから、『闇金ウシジマくん』を読む合間に、毒消しに『のたり松太郎』を読んでいるのだった。

 絶望の「下流」を垣間見ることもある。でも、「下流」から射す希望もある。