海老蔵という至宝

 昨日、東京からとんぼ帰りして、そのまま名古屋の御園座に行く。陽春花形歌舞伎「雷神不動北山櫻」を観るためである。
 この狂言、配役が悪い。座頭は市川海老蔵である。それはいい。しかし、脇が芝雀、友右衛門、門之介、笑三郎春猿……では、全国公立文化施設協会主催の歌舞伎よりも配役が悪いのではないか。歌舞伎ファン拡大のためのどさまわり公演のレベルだと思っていた。
 役者での見所は海老蔵しかない。唯一、期待していた春猿も若衆役で持ち味が出ていなかった。むしろ男が全面に出ている分、いつもの艶やかさが失せて、見苦しくなっている。
 でもね、そんなマイナスをふっとばすほど、舞台はエキサイティングだった。全編、海老蔵が出ずっぱりで五つの役を演じ分けている。その精力的な動きは、往年の猿之助を彷彿とさせ「次世代の歌舞伎のリーダーはこの男だな」という確信が持てた。父親の団十郎と師匠の猿之助の良いところだけを身につけ、そして団十郎家のもつ役者のオーラみたいなものも身にまといはじめている。これからが楽しみな大きな役者になってきた。
「北山岩屋の場」にしても「朱雀門王子最期の場」にしても、これぞ歌舞伎という荒事を見せてくれる。「歌舞伎はちょっと……」という人でも、エンタテイメントとしても充分に楽しめるので、一度ご覧になることをお薦めしたい。

 それから、腰元役の中に綺麗な役者がいた。名前が不明だが、生半可な綺麗さではなかった。少しクラッときましたぞ。この役者については追跡調査をしていきたい。