熱い民族 その1

 北京五輪の開会式で「孔子」と「漢字」がアトラクションのテーマとなっている。つまりこれらは漢民族の誇りだということだろう。
 昭和49年のことである。中日友好協会のまねきで中国を訪れた西園寺公一らが中国のトウ(登におおざと旁)小平副首相と会談したとき、トウ副首相はこう言った。
「日本軍国主義の侵略で中国も随分損害を受けたが、これは数十年のことだった。これに対し、中国は歴史的に二つの点で迷惑をかけてきた。一つは漢字で、他の一つは孔孟の道である。」
 政権の最高幹部が、「漢字と儒教は中国近代化の大きな枷となっている。このような害毒を日本に輸出して申し訳ない」と謝辞した。
 この発言があった1974年は、文化大革命の真っ只中であり、中国は壮大な悲劇に苛まれていた。とくにこの年は、政権内の良識派である周恩来トウ小平を追い落とすために画策された「批林批孔運動」という狂った文化運動に火がついていた。「批孔」というのはもちろん「孔子を批判する」という意味である。その動きに対してアイロニーを込めて副首相が語ったわけである。
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