ワシャ蔵、行方不明

 今日も今日とて銭亀の平次親分が木戸番屋を覗きこんで、番太の年寄りに声をかける。
平次「とっつあん、地震屋のワシャ蔵を見かけなかったかい?」
番太「ああ、銭亀の親分さん、寒い日が続きますねぇ。今朝方も天水桶に氷が張ってましたよ」
平次「そんなこたぁどうでもいいんだ。あのテレツクテンのワシャ蔵を見なかったかと聞いているんでぃ」
番太「親分は相変わらずせっかちだねぇ。話には順序というものがあるでしょう。まずは時候の挨拶をして、それから本題に入るわけですよ。ワシャ蔵ですかい。ワシャ蔵なら朝方に『酒のない国に行ってくる』と言い残し、両国橋を渡って本所の方に歩いていきましたよ」
平次「酒のない国?野郎、また酒を飲んだんじゃあるめいな。それでなくたって阿呆のクセしやがって、あれ以上脳細胞を死滅させたら、ホントのパープリンになっちまうぜ。あれほど深酒はしないと誓っていやあがったのに、太え野郎だ。しょっ引いてやる」
番太「まあ親分、そういきり立たずに、お座んなさいよ。外は寒かったでしょう。今、火鉢で熱燗をつけてあげるから呑んでお行きなさいな」
平次「何を言っているんだ。おいら勤務中だぜ」
番太「そんな堅いこと言わずに、一杯お上がんなさいよ」
平次「よさねえかい、お上の御用を預かっているんだ。昼間っから酒なんか呑めるけぇ」
番太「そう言わずに……」 
平次「いらねえったらいらねえ」
番太「ちょっとぐらいならいいじゃないですか」
平次「うるさい!」
 平次と番太がいい争っていると、番太のうしろの押入れがスーッと開いてワシャ蔵が顔を出す。
ワシャ蔵「そんなにいらねえんならオイラがいただきますよ」
 おあとがよろしいようで。

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