ドラマ官官接待の続き その1

「し」
 検査員はその後の言葉を続けた。
市道寒館雪台線道路改良工事」
 その声にわらわらと人の移動が始まる。対象工事が読み上げられたので、その担当者が後方から書類を満載したコンテナを持って一番前の席に移らねばならない。バタバタしていると検査員の叱責の声が飛ぶ。
「遅い!」
 受験者は汗をかきながらバインダーを白布机に並べる。
「申請書」
 並べた書類の中から数枚の書類を出して検査員の前に出す。
「交付決定」
 再び書類の中から書類を出して検査員に渡す。

 会議室の正面にある時計は11時45分、県の職員がおもむろに検査員に近づきお伺いをたてる。
「そろそろ昼食の時間ですが……」
 おいおい、まだ検査開始から40分しか経ってないぞ。
「何を言っているんだ。まだ、検査中だ」と、検査員は言わない。「うむ」と頷きおった。
「そうでございますか」と揉み手をする部長を先頭に検査員と県職員は会議室をあとにするのだった。
 これから市の南部にある料亭に車で移動する。そこで豪華な昼食が饗されるのだ。検査員は儀礼的に1000円を支払い、1000円の領収書を取る。その昔はそんな領収書すらなかったが、もちろん昼食が1000円であるわけはない。最低でも数千円の豪華な膳が並べられている。一宴会終わって、トランクに地元の名産を満載して戻ってきたのは2時だった。
 検査員が爪楊枝をくわえながら白布机の席に座ると、女子職員がお茶を出す。お茶を飲みながらタバコを燻らす検査員の表情は午前中よりも穏やかだ。鼻薬が効いたようだね。
「隘路坂交差点改良工事」
 次の検査対象が読み上げられる。「申請書」、「交付決定」、「実績報告書」を見て、またお茶とタバコになる。
「受験工事は30本ほどあるが、なんとか2本で収まりそうだ」と部長はほくそ笑んでいる。
(下に続きます)