変人 その1

 ワシャは社内でも「変人」で通っている。この間は上司に呼びつけられて「変わり者!」と罵声を浴びせ掛けられたくらいだ。もちろんワシャは自分が変人などと思ってはいない。いたって常識的な普通のサラリーマンだと思っている。ただ、集団に与することが嫌いなだけだ。
 かつてこんなことがあった。
 入社して5〜6年経った頃の話である。職場の先輩から声を掛けられた。
ワルシャワ君、どうだい、たまには一緒に飲まないか」
 もちろん酒に弱いくせに酒好きなワシャは、二つ返事で了解した。
 そして先輩の指定した料亭に顔を出すと、なんと30人ほどの社員が座敷に犇めき合っている。上座には幹部連中が鎮座している。
 どうやら中央に坐る部長の派閥の会合に呼ばれたらしい。
「これでお前も前途洋々だ」
 先輩の話では大物部長の側近の課長がワシャを推薦したらしかった。ワシャの他にも同期の若僧が2人呼ばれていて、隅の方で縮こまっている。
 宴が始まって、自席で数杯を重ねると、座が動きはじめた。それぞれの先輩に付き従って上座にお調子を持っていく。部長の前で正座して先輩から「営業2課のワルシャワです」と紹介される。部長は「うむ」とか言って飲み干した盃をワシャの目の前に突き出した。これが親分子分のかための盃か、と思った。
「営業2課?H課長のところか」
 部長は徳利を摘み上げながら、少し眉間に皺を寄せた。
「お前、Hのことをどう思う?」
 ワシャだってそうバカではない。部長の表情を見れば、部長がH課長のことを嫌っていることは一目瞭然だ。第一、この宴に呼ばれてすらいないのだから。模範回答は、「上司の陰口を言わない健気さを醸し出しつつも少量の批判を臭わせておく」といったところだろう。
(下に続く)