テレビの上質

 夕べのNHKBS「お宝デラックス」は面白かった。この番組は、その時々のテーマに合わせて、ゲストの記憶に残っている過去のテレビ映像を掘り起こし、様々な切り口からその魅力に迫っていく。今回のテーマは「伝説の男たち」と題して、石原裕次郎の「太陽にほえろ!」、江夏豊の「NHK特集 江夏豊の21球」、鶴田浩二の「男たちの旅路」を取り上げている。3本とも上質なテレビ番組だったが、今日のところはドラマのほうは置いておく。

「NHK特集 江夏豊の21球」のことである。いやぁ、これは凄い番組だった。
 昭和54年11月4日、広島カープ近鉄バッファローズ日本シリーズ第7戦、カープ1点リードでむかえた9回裏、マウンドは「優勝請負人」とあだ名される江夏豊。彼は無死満塁の危機を、神業の第19球を含めて21球で仕上げて広島カープを優勝に導く。
 ワシャは子どもの頃から野球なんて興味がなかった。だからナイター中継なんてトンと観たことがない。でもね、偶然、この日のこの回だけなぜか観ていたんですな。そしてその後、この9回裏の江夏の投球が伝説となっていったことも知っている。でも「NHK特集 江夏豊の21球」は見逃していた。改めて「お宝デラックス」で見ると、この破天荒な天才ピッチャーが、どれだけ素晴らしい職人だったかということを再認識させられた。
 すでに投球モーションに入っていた江夏は、眼の端で打者の微妙な動きを捉えていた。「スクイズや」と見切った彼は瞬時に判断し、カーブを投げるべく投球行動を開始している左手に、全神経を集中しボールを外角へ大きく外すよう命令を出す。(人間技としてそんなことができるんかいな?)このために打者はスクイズを失敗し、近鉄は貴重な追加点を上げることができなかったのだ。これが「奇跡の第19球」だった。そしてこの第19球を含む江夏の投げたわずか21球に焦点を当てて30分番組にしたのが「NHK特集 江夏豊の21球」だった。この作品、テレビ史に残る名作と言っていい。

 この名作や石原、鶴田のドラマがプロの仕事だとすれば、昨今、粗成乱造されているバラエティ番組などは小学生の学芸会以下である。ワシャはその類のゴミ番組は一切見ないからいいけれど、あんなものを延々と見ていると脳細胞が腐ってきまっせ。とくに発育途上のお子さんがいる家庭ではテレビを消した方が身のためですぞ。